研究概要 |
細菌逆転写酵素は,msDNAと呼ばれるRNA-DNA複合体の合成を行っている。逆転写酵素遺伝子は,ゲノム上でmsDNAをコードする領域(msr-msd)とともにレトロンと呼ばれるオペロンを形成しており,一種の可動性遺伝因子だと考えられている。コレラ菌の逆転写酵素欠損株の解析からレトロンが病原性発現調節を行っている可能性が示唆されている。本研究では,レトロンと病原性発現調節との関係をmsDNAによる遺伝子発現制御とレトロンの機能未知のORFの機能解析より明らかにすること,および転移性遺伝因子としての機能と薬剤耐性遺伝子伝達における役割を明らかにすることを目的としている。 今年度の研究では,コレラ菌のレトロン-Vc95の逆転写酵素遺伝子(ret)下流に存在するorf540遺伝子の機能解析を行った。orf540遺伝子の欠損変異株を作製し,マイクロアレイやカイコ幼虫に対する病原性解析などで野生株との比較を行った。その結果,ヌクレオチド結合配列を有するORF540は,コレラ菌の病原性を密接な関係があることが明らかになった。また,Vibriocholerae non-O1,non-O139の環境分離株とV.mimicus臨床分離株より新たなレトロンを同定し(レトロン-Vc154,レトロン-Vm129),塩基配列の解析を行った。いずれのレトロンもレトロン非保有株のゲノム塩基配列との比較解析から,ゲノムへの挿入配列が明らかになり,レトロンの可動性を示唆する重要な成果が得られた。
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