研究概要 |
細菌逆転写酵素は,msDNAと呼ばれるRNA-DNA複合体の合成を行っている。逆転写酵素遺伝子は,ゲノム上でmsDNAをコードする領域(msr-msd)とともにレトロンと呼ばれるオペロンを形成しており,一種の可動性遺伝因子だと考えられている。コレラ菌の逆転写酵素欠損株の解析からレトロンが病原性発現調節を行っている可能性が示唆されている。本研究では,レトロンと病原性発現調節との関係をmsDNAによる遺伝子発現制御とレトロンの機能未知のORFの機能解析より明らかにすること,および転移性遺伝因子としての機能と薬剤耐性遺伝子伝達における役割を明らかにすることを目的としている。 今年度の研究では,Vibrio choleraeのレトロン-Vc95(あるいはmsDNA-Vc95)の関与が示唆されているORFであるVC0176(putative transcriptional regulator)とVC0177(putative response regulator)の解析を進めた。VC0176にHis-tagを付加し,精製したタンパク質を用いてgel shift assayを行ったところ,msDNA-Vc95への特異的な結合が観察された。しかし,VC0176の欠損変異株を作製してマイクロアレイを利用した網羅的な遺伝子発現解析を行ったところ,野生株と大きく発現量の異なる遺伝子の発見には至らなかった。また,レトロン-Vc95における三番目のORFであるorf205の欠損変異株を作製した。次年度に解析を進める予定である。大腸菌のプラスミド性レトロンについても,解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レトロンの機能解析を行うために,機能未知のORFについて変異株の作製や影響を受ける遺伝子と考えられているVC0176について,タンパク質の精製とmsDNAとの相互作用解析などを進めることができた。しかし,予定していたカイコを用いた病原性解析は,次年度に先送りすることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところ,msDNAがデコイ核酸として機能しているという仮定の基に研究を進めてきたが,現在までに確実な証拠は得られていない。次年度は,msDNAがアプタマーとして機能している可能性も考え,one hybrid法によってmsDNAと相互作用するタンパク質を探索する。また,レトロン内の機能未知のORFについては,機能解析を行うためにtwo hybrid法によって相互作用するタンパク質を探索する。
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