研究概要 |
これまでピロリ菌が産生するVacAの本菌感染における役割を解明するために毒素病態学的な研究を進め、VacA受容体が2種の受容体型チロシンフォスファターゼ(RPTPαとRPTPβ)であることを示した。そしてVacAが胃粘膜上皮細胞のRPTPβに結合してその細胞接着能を減少させ、その結果、上皮細胞が基底膜から剥離し、胃酸の逆拡散などに曝されて胃炎、潰瘍の病態が形成される機序を報告した。しかし、その後VacAが細胞の「生と死」といった相反する現象を促す作用を示すこと、とくにVacAによる細胞増殖に関わる情報伝達経路の活性化は、これまで申請者らがVacA受容体として報告したいずれのPRPTを介していないことが判明した。そこで、本年度は、これまでVacA受容体の同定に用いた方法をスケールアップして、VacA抗体による免疫沈降によって得られるVacAと結合する蛋白質の解析を進めた。免疫沈降物に認められた蛋白質のMass解析した結果、数種類の膜蛋白を候補蛋白として認めた。とくにLRP1は膜1回貫通蛋白であり、悪玉コレステロールLDLと結合するほかに、細菌毒素である緑膿菌Exotoxin Aを含む30以上のリガンドと結合し広範多岐な生理機能に関わる情報の伝達に細胞、組織特異的に機能している。細胞外マトリックス蛋白トロンボスポンジン1(TSP1)はLRP1と結合しPI3K/Akt情報伝達経路を活性化し抗アポトーシス作用と線維化の促進に寄与することが報告され、VacAと同様にPI3K/Akt経路の活性化がLRP1を介して生じている。LRP1がVacAと結合することを免疫化学的,細胞化学的、分子生物学的に証明を試みた。LRP1の発現をsiRNAを用いて抑制した細胞では、VacAの空胞化活性が阻害されたが、目的とするVacAによるAktやGSK3βのリン酸化亢進には影響しなかった。
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