研究概要 |
1.コレラ菌 (1)誘引・忌避物質とその受容体(MLP)の同定および機能解析:ペリプラズム領域にPAS様ドメインを2つもつMlp24がさまざまなアミノ酸を結合し,走性を媒介することを見出した.さらに,部位特異的変異導入により,PAS様ドメインの一つがアミノ酸結合に関与することを示した.Mlp24と近縁のMlp37はさまざまなアミノ酸に加えてタウリンも結合し,走性を媒介することを見出した.PAS様ドメインを1つだけもつMlp2とMlp3もアミノ酸走性を媒介するが,特異性が大きく異なることを示した. (2)培養条件による受容体の発現・機能調節とその機構の解析:Mlp37およびそれと相同なMlp10が培養温度により異なる発現調節を受けることを見出し,それが転写レベルで起こることを示唆する結果を得た. (3)受容体のCheシステムへの帰属:mlp24,mlp32,mlp37三重欠失株を構築し,これを宿主としたMLP発現系を用いると,アミノ酸走性能がスウォームアッセイによって解析できることを見出した. (4)Che蛋白質の局在解析:システムIとIIIのChe蛋白質は微好気的条件下での極局在について,薬剤を用いた解析を行い,酸素の有無は局在制御に直接関係しないことを見出した. 2.海洋ビブリオ菌 (1)誘引・忌避物質とその受容体の同定および機能解析:コレラ菌のいくつかのmlp遺伝子をクローン化し,アミノ酸走性を媒介するかどうか解析した.また,キチンの構成成分であるN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)存在下で,GlcNAcに対する走性が促進されることを見出した. (2)培養条件による受容体の発現・機能・局在調節とその機構の解析:コレラ菌Mlp24,Mlp37と相同性の高いMlpAの側毛発現時と非発現時での細胞内存在量を解析した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コレラ菌,海洋ビブリオ菌のアミノ酸走性受容体を同定できたこと.とくに,コレラ菌Mlp24については,構造-機能相関が明らかになってきた.すでに論文投稿中で,改訂中である.Mlp37については,タウリン認識能,37℃での発現誘導などから,病原性との関わりが示唆された.CheシステムI,IIIコンポーネントの局在制御についても,解析を進める中で病原性との関わりが示唆された.このように,とくにコレラ菌において,環境応答の分子機構と生理的意義に関する研究は計画以上に進展している.海洋ビブリオ菌の解析は予想以上に困難で,やや遅れているが,総合的には順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究成果を公表する.コレラ菌Mlp24がアミノ酸受容体であることを証明した研究に関しては,すでに論文を投稿し,改訂中であり,最終的に完成させる.コレラ菌Mlp37がアミノ酸・タウリン受容体であり,37℃での発現誘導を受けることを示した研究についても,論文を執筆し,投稿する. 前年度までの研究を継続・発展させ,つぎの解析を行う.(a)コレラ菌アミノ酸走性受容体の機能解析,(b)コレラ菌MLPのCheシステムへの帰属,(c)コレラ菌MLPおよびChe蛋白質の局在解析,(d)海洋ビブリオ菌アミノ酸走性受容体の機能解析,(e)GlcNAcとその重合体に対するビブリオ菌の走性の解析
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