研究課題
薬の効き方や副作用は、薬が作用する部位での薬の濃度と密接に関係しており、それには薬を代謝する酵素が非常に大きな影響を与えている。薬を代謝する酵素として知られているものは多数あるが、特に重要なものは肝臓で働く酵素の一種であるCYP(CytochromeP450)である。CYPは人の薬の代謝に関わっているものだけでも20種類以上報告されているが、その中でも特にCYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3Aなどが重要であり、薬の大半がこれらのCYPによって代謝されている。さらに、これらの酵素は遺伝子配列のうち、一塩基が置き換わった一塩基多型(SNPs: Single Nucleotide Polymorphisms)が存在し、代謝活性に大きな影響を与えることが知られている。しかしながら、薬物代謝酵素の活性の変化が薬剤の効能や副作用に与える影響についての知見は未だ乏しく不明な点が多く、更なる研究が望まれている。胃酸が食道に逆流することで引き起こされる疾患には、食道粘膜に炎症が起きる逆流性食道炎と炎症が起きない非びらん性胃食道逆流症が知られている。本疾患の治療には両者とも胃酸の分泌を阻害するプロトンポンプ阻害薬(PPI)が用いられるが、PPIがCYP2C19により代謝されることから、その治療には個人差が存在するとされてきた。そこで、遺伝的要因が本疾患の治療に与える影響について調べたところ、野生型の遺伝子型を有する患者はCYP2C19*2、CYP2C19*3のいずれかの変異型を有する患者に比べて逆流性食道炎の治癒率が低いことが認められた。しかしながら、非びらん性胃食道逆流症には治癒率に大きな変化は認められなかった。このことは、逆流性食道炎のPPIによる治療にはCYP2C19の遺伝子型が影響を与えていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
診療科との共同研究でワルファリン代謝酵素やプロトンポンプ阻害薬の代謝酵素を始めとして、遺伝子解析システムが構築されている。さらに、解析結果をもとに薬剤の選択など投与設計を行う体制も整いつつある。しかし、遺伝子データベースの構築に必要なデータの集積は未だ少なく更なる収集が必要である。また、薬剤師レジデントに対する遺伝子解析教育は実施しているが、専門知識に乏しい薬学生や医学生への教育に必要な教材などの作成が今後必要となると考えられる。
遺伝子データベースの構築に必要なデータの集積は未だ少ないため、今後は、より多く解析を行う予定である。しかし、多くの解析を行うには、労力と時間が必要となる。そこで、解析の効率化を図るため外部機関に委託することで収集の推進を図るよていである。現在、薬剤師レジデントに対して、遺伝子解析の結果解釈と治療計画の策定についての教育を行っているが、薬学生など専門知識に乏しい者への教育システムは未だ構築されるには至っていない。そこで今後は、薬剤師のみならず薬学生や医学生への教育を行うことを予定している。そのために必要な教材や教育に対するカリキュラムについては現在策定している段階である。
すべて 2011
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