研究概要 |
原発性肝細胞癌(HCC)の診断においては画像診断が主体であり、血液検査による早期診断は容易でない。HCCの新しい腫瘍マーカーの探索の一つのアプローチとして肝癌組織で高発現蛋白質に対する血中自己抗体の検出も重要である。我々は以前にHCCの癌部・非癌部のプロテオームを2D-DIGEにより比較して、CHC, FTCDなどの蛋白質発現量を免疫染色により評価することがHCCの組織診断に有用であることを報告したが、(Hepatology 2008;48:519-530)、その知見をもとに、HCCで高発現している蛋白質に対する血中自己抗体がHCCの血清診断に利用できるか否かについて検討した。対象は千葉大学医学部附属病院消化器内科を受診した計113名のC型肝炎ウイルスに起因するHCC(Stage I、N=28 およびStage II、N=30を含む)、143名のC型肝炎ウイルス関連肝硬変患者, 50名の慢性肝炎患者である。プロテオーム解析により肝癌組織における高発現している蛋白質に対する血中自己抗体の検出の有無を予備検討として行った結果より、血中Ku86抗体に焦点をあてた。血中抗Ku86抗体レベルはKu86抗原およびanti-human IgG conjugated to HRPを用い、450nmの吸光度測定により評価した。健常人、肝硬変に比して、血清Ku86抗体レベルはHCCで有意に上昇していた。Stage I, IIのHCVに起因するHCCにおいてその陽性率は従来のマーカーであるAFP, PIVKA-IIを上回っていた。ROC解析においてもKu86の優位性を確認することができた。今後多数例、HCV以外の要因によるHCCにおいてさらに検討する必要がある。
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