研究概要 |
工業素材である多層カーボンナノチューブはエンドサイトーシスによりヒト肺上皮細胞に取り込まれ、DNAに酸化・ニトロ化損傷を引き起すことを見いだし、8-ニトログアニンが炎症起因物質の曝露マーカーとして有用な候補分子であることを明らかにした(Toxicol Appl Pharmacol, 2012)。また、タイ肝吸虫感染によるタンパクの酸化が胆管癌の発症および進展に重要な役割を果たすことを明らかにした。すなわち、鉄結合タンパクであるトランスフェリンの酸化損傷により鉄イオンが放出され、更なる酸化ストレスの要因となること、また、α1-アンチトリプシンやHSP70の酸化損傷が患者の予後と関連した(Free Radic Biol Med, 2012)。さらに、胆管癌におけるDNA損傷性が幹細胞マーカー陽性例と陰性例で有意に異なることを見いだした(論文投稿中)。胆管癌組織よりDNAを抽出し、メチル化DNAを収集し、次世代シークエンサーを用いたゲノムワイド解析を行っている。ビルハルツ住血吸虫感染膀胱癌において幹細胞マーカーOct3/4の発現が高いのに対し、非感染膀胱癌ではCD44v6が高い発現を示し、COX-2の核内移行がこれらの幹細胞増殖に寄与する可能性が示唆された(Mediators Inflamm, 2012)。逆流性食道炎においてプロトンポンプ阻害剤を使用することで 抗酸化酵素Mn-SODの発現が増強され、変異原性のあるニトログアニンの生成が抑制されることを明らかにした(Biochem. Biophys. Res. Commun, 2012)。 以上より、感染・炎症関連発がんにおいて、酸化・ニトロ化ストレスが重要な役割を果たし、幹細胞における遺伝子損傷が発がんの分子機構の一端を担うことが示唆された。
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