脳虚血を伴う脳出血、脳梗塞およびクモ膜下出血などの脳血管疾患は3大死因の1つである。従って、脳虚血時の脳内病態を詳細に検討する事は法医診断において非常に重要である。脳虚血は細胞の生存に必要な酸素や栄養源の供給不足を引き起こすと考えられる。一方、ミトコンドリアは細胞内のエネルギー産生(酸素呼吸)において中軸的な役割を担うと共に、アポトーシスやネクローシスなど細胞の生と死の両面に対して重要な役割を有する細胞内小器官である。そこで、本研究では脳虚血モデル神経細胞を用いて脳虚血に伴うミトコンドリアの形態変化を調べ、これらの変化が法医診断マーカーとして有用であるかについて検討した。 当該年度は、神経芽細胞(SH-SY5Y)と対照細胞としてHeLa細胞及びHek293細胞を用いてミトコンドリアの形態の変化を調べた。まず、ミトコンドリア特異的蛍光試薬を用いて、各細胞におけるミトコンドリアの形態や染色特性を詳細に検討し、正常時におけるミトコンドリアの形態を抽出した。一方、上記試薬を用いた染色では、固定条件下において著しい蛍光強度の低下が認められたため、赤色蛍光蛋白質(RFP)遺伝子をミトコンドリア内で発現させて観察を行った。RFPを用いた蛍光観察では細胞固定後も、蛍光強度が維持されており、ミトコンドリアの3次元像を構築可能であった。また、固定条件によってミトコンドリアの形態や細胞内分布が変化している可能性が示唆された。これらの結果は、急死、遷延性の死亡或いは死因などによりミトコンドリアの形態が変化している可能性を示唆するものであり、この変化は法医診断マーカーとして有用であると考えられた。
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