末期の肝硬変症例に対する唯一の根治的治療法は肝移植術であるが、ドナー肝臓の圧倒的な数不足のために実施症例はごく限られているのが現状である。肝移植に替わる新規治療法を確立することが社会的にも重要かつ急務であることを鑑み、我々は肝硬変症例に対する新たな線維化改善と肝臓再生促進治療法の開発に繋がる基礎研究を推進してきた。 肝臓は本来、再生能力に長けた臓器であり、例えばマウスの肝臓を70%切除しても、1週間から10日で元の大きさに復元する。ところが、線維化が進行すると肝臓の再生が阻害され、充分な回復ができなくなる。この時に駆り出されるのが、肝細胞の源となる「幹前駆細胞」である。我々は、肝線維化の進行とこの幹前駆細胞動員との関連を握る重要な因子として、幹前駆細胞の表面に発現するNotchという受容体と、それに結合するJagged-1に着目した。 生後間もなく全ての肝臓構成細胞でJagged-1遺伝子を欠損させたマウスでは、不規則な胆管増生と周囲の星細胞の活性化、さらには著明な線維の蓄積が認められた。また、肝細胞特異的にJagged-1を欠損させたマウスにおいては胆管構造に異常は見られなかったのに対して、門脈域の間葉系細胞特異的にJagged-1遺伝子を欠損させると胆管の形成不全とともに生育に伴って顕著な線維化が認められた。これらの所見から、間葉系細胞から幹前駆細胞へと伝達されるNotch/Jagged-1シグナルが、肝臓の発達や再生のみならず線維化進展を制御している可能性が示唆され、同シグナルを介する肝線維化と再生の病態連繋が初めて明らかにされた。 さらに、線維肝組織内に流入した骨髄細胞に由来し、線維化改善と再生促進を促す新規分子としてOpioid growth factor receptor-like 1を同定して、線維肝に対する新たな再生治療の道を切り開いた
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