研究概要 |
血管内皮は、内皮由来弛緩因子(endothelium-derived relaxing factors, EDRFs)と総称される弛緩因子を産生・遊離して、短期的には血管トーヌスを弛緩優位に保ち、長期的には動脈硬化の発生・進展を抑制して、心血管系の恒常性の維持に極めて重要な働きをしている。このEDRFsには3種類あり、第1のプロスタサイクリン(PGI2)、第2の一酸化窒素(NO)は既に同定され、一部で臨床応用されている。第3の因子である内皮由来過分極因子(endothelium-derived hyperpolarizing factor, EDHF)の本体は不明であったが、我々は、NOとEDHFには血管径による明らかな役割分担があり、種差や血管床の如何に関わらず、NOはより太い血管で、EDHFは微小血管で重要な働きをしていることを明らかにした。平成22年度は一酸化窒素合成酵素系(NOSs)に関する一連の研究から以下のような点を明らかにした。 (1)血管径によるNOSs機能の顕著な多様性には多くの機構が関与していること、また、この血管径による顕著な機能分化に骨髄由来細胞が関与していること。 (2)急性心筋梗塞・腎病変・メタボリックシンドローム等の表現型がEDHF/H2O2反応が消失したNOSs完全欠損マウスで初めて顕在化し、NOSsの生体の恒常性維持作用の一部はNOを介さない作用で惹起されていること。 (3)我々がNOSs研究と平行して行ってきた血管反応性や動脈硬化の分子機構におけるRho-kinase経路の重要性が、これらのNOSSの生物学多様性と実は深く関与している可能性が出てきたこと。 本研究を通じて、これまで明らかにされていなかったNOSsの生物学的多様性が初めて明らかになった。
|