研究課題/領域番号 |
22390169
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
土井 俊夫 徳島大学, 大学院・ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (60183498)
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研究分担者 |
安部 秀斉 徳島大学, 大学院・ヘルスバイオサイエンス研究部, 准教授 (60399342)
長井 幸二郎 徳島大学, 病院, 講師 (40542048)
冨永 辰也 徳島大学, 大学院・ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (80425446)
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キーワード | 糖尿病性腎症 / BMP4 / Smad1 / Sox9 / バイオマーカー / 抗体医療 |
研究概要 |
(1)糸球体硬化の進行過程におけるBMP2/4によるSmad1活性化機構の解析:前年度に確立したSmad1発現誘導因子同定システムにおいて、最も重要な因子であることが明らかになったBMP4を用いて、いわゆるヒトでの長期暴露の影響を確認するために、ヒトメサンギウム細胞に長期反復投与を行い、糖尿病性糸球体硬化関連分子群のうちでもSox9の発現が誘導されることを明らかにし、分子治療の新規ターゲットを得た。(2)糖尿病性腎症モデルマウスを用いた既存の治療法の再評価:糖尿病性腎症の治療として現在、一般に用いられている、インスリン、アンギオテンシン受容体拮抗薬などの効果を、Smad1の発現抑制の程度、硬化症進行抑制の程度により評価し、RA系阻害薬などの既存の治療では改善し得なかった、糸球体硬化をBMP4の特異的な中和抗体投与により、改善し得るか検討するため、血液・尿の回収を行っている。現時点では有害な副作用を認めていない。(3)BMP2/4のコンディショナルトランスジェニックマウスを用いた治療法の検討:Smad1はリン酸化されて、病変形成に本質的な役割を果たすため、細胞質中でのSmad1の活性化阻害の候補薬として、MET阻害薬などのスクリーニングにより、数種類の候補薬剤を得た。特に、BMP2/4のコンディショナルトランスジェニックマウスへの投与を行い、安全性の確認を行った。Smad1の活性化抑制効果、ならびに糸球体硬化症形成の抑止効果を判定するため、血液・尿の回収を行っている。(4)糖尿病性腎症の発症・進展時の尿中BMPのバイオマーカーとしての有用性の検討:前年度に選定・樹立された高感度でかつ特異度の高い尿中BMPの測定を行い、ストレプトゾトシン誘導糖尿病マウス、iNOSトランスジェニックマウスとそれぞれのコントロールマウスの尿中BMPと従来の尿中Smad1を測定し、尿中BMPが尿中Smad1の出現に先行して尿中に出現することを確認した。また、尿中バイオマーカーのパネル化のために、各ステージにおける腎糸球体硬化症の重症度とバイオマーカーによる重症度評価を行い、良好な相関関係が得られつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎不全の不可逆的な進行を決定づける因子としてSox9を同定した。糸球体毛細血管の狭窄が進行し、血流不全をきたして、hypoxic stressに糸球体構成細胞はさらされると、Sox9は誘導された。Sox9が軟骨というavascularな環境に適応する形質を司どるタンパク質であり、軟骨と同様のコラーゲン類を産生し、糸球体硬化を促進させることが明らかとなった。さらに、BMP4-Smad1-Scleraxisという異常なシグナル伝達経路も見出し、BMP4の塘尿病性腎症進展における意義が分子レペルで証明された。コンディショナルノックインモデルによって、BMP4のシグナル遮断が、組織変化の改善を示すことが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
Sox9の発現がhypoxic stressに適応するための発現誘導と考えられるが、この誘導が、糸球体硬化の進展抑制のために有益であるのか、それとも不利であるのかはまだ不明であり、Sox9のコンディショナルトランスジェニックマウスなどによるphenotypeの解析が必要である。糖尿病性進展における尿中Smad1、BMP4がヒトの腎症の進展においても病態の変化を正確に反映するバイオマーカーたりえるかどうかの検証が、ヒトの尿・腎組織の解析によって行う必要がある。これらの推進によって、糖尿病性腎症の分子病態とそれに連動する尿中バイーオマーカーの可能性が高まり、さらには、分子病態を踏まえた新規治療法の確立に門戸を開くものであると考えられる。
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