研究概要 |
目的:言語や音楽において重要な1秒以内の時間知覚の研究は少ない。3つの音で区切られた2つの異なる短い時間間隔を等しく見積もる心理学的錯覚現象「時間的同化」を用いてwhen経路の機能を明らかにする。次に,視覚・体性感覚においても時間的同化が起こるか否かを3つの視覚刺激パターンあるいは触覚振動刺激で区切った課題において検証する。以上より,脳が「いつ,どこで,どのような」時間情報を作り出すのかを解明する。これらの知見を基に種々の精神・神経疾患に応用し,補助診断としての有用性を検討する。 方法:被検者に時間認知課題を負荷し,課題遂行中の脳の反応を事象関連電位(ERP)で記録した。ERPの記録には,128チャンネル高密度脳波計(128ch EEG)あるいは306チャンネル脳磁計(306ch MEG)を用いた。能動的処理過程の指標である随伴陰性変動(CNV)と自動的処理過程を反映するミスマッチ陰性電位(MMN)を計測し,聴覚・視覚・体性感覚の時間的処理過程を検討した。 結果:視覚および体性感覚の時間的同化に関する研究は進行中である。それ以外に本年度,論文として発表した内容をまとめて記す。1)自閉症では,自動処理過程を担う視覚性MMNは正常であるが、ERPのP300成分に障害があり、トップダウンプロセスの異常があることを見出した。2)吃音者において,聴覚P50mのgating機構に障害があり,感覚フィルタリング処理の障害があること、また右聴覚野の音周波数配列が代償性に拡大していることを認め,聴覚-言語野の機能障害により吃音が生じている可能性を指摘した。3)聴覚の時間的同化に対するCNVをナイーブ・ベイズ分類法(独立特徴モデル)で解析し、CNV反応から被検者がどのような時間知覚判断を行っているかを解読できることを論文に載せた。 まとめ:研究2年目ではあるが,一定の成果を得ることができた。
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