研究概要 |
中枢性尿崩症は視床下部-下垂体後葉系に存在するバゾプレシン(AVP)ニューロンの障害に起因する難治性の疾患であり、再生医療の開発が切望されている。近年マウスES細胞からAVPニューロンへの分化法が開発され、このES由来AVP細胞(ES-AVP細胞)を利用し中枢性尿崩症モデル動物における細胞治療法の開発を行なった。ES-AVP細胞をモデル動物に移植し、生着率、治療効果を上げる目的で諸条件の適正化について検討し以下の成果を得た。 1)細胞移植:モデル動物の視床下部視索上核近傍に片側性にES-AVP細胞を移植し、細胞数2,000-4,000個/匹前後の投与で抗利尿効果を示すことが確認された。2)細胞の生着:生着率を調べるためマウス脳切片における移植細胞の経過を移植後8週まで観察した。移植細胞は経過とともに減少したが、AVP陽性細胞は8週後も残存していた。3)治療効果:移植ラットを8週間飼育して尿量,飲水量、体重、尿中AVP量などの生理的パラメータを測定した。尿量及び飲水量は4週目から有意な減少傾向を示し、8週目では平均40%程度の有意な減少が見られた。4)安全性:今回は8週まで観察したが、細胞のがん化や奇形種をはじめとするいかなる腫瘍性病変も発生しなかった。 結語:移植細胞が生体内に生着し、2か月にわたりAVP分泌が維持され尿量減少等の治療効果が確認された。
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