本研究ではABLキナーゼ阻害剤治療におけるフィラデルフィア染色体陽性(Ph+)白血病の残存と耐性化の機序の解明ならびにその克服を目的とした。また急性前骨髄球性白血病(APL)における亜ヒ酸治療耐性機序に関する機序解明についても解析した。 invaderアッセイによって、イマチニブ耐性を示す慢性骨髄性白血病(CML慢性期29例、AP/BC14例)、Ph+急性リンパ性白血病(ALL)17例においてBCR-ABL変異を50%に認めた。またBCR-ABLにおけるキナーゼドメイン領域の新たな挿入変異K249RGGを発見し、さらにイマチニブ治療中にT315Iが出現した患者では、CD34+CD38+前駆細胞分画に最初の出現を認めた。Ph+ALLのex vivoでのイマチニブ処理ではCD34+38-分画でより残存傾向を示した。この分画ではBCR-ABLのリン酸化は抑制されていたが、静止期細胞が多いことが残存の原因と考えられた。PI3K-AKT-mTORシグナルは幹細胞の生存・維持に重要であることが示されており、mTOR阻害剤エベロリムスの併用の効果を確かめた。ex vivoおよびin vivoにおいて、エベロリムス併用が有意に白血病の増殖を抑制することを示した。 一方、APLでは亜ヒ酸がレチノイン酸の感受性と関わりなく有効であることが示されているが、その作用機序は十分明らかではない。我々は15例中2例に亜ヒ酸抵抗例を認め、この2例でPML-RARAキメラ転写因子のPML部分におけるB2ドメインにおける点変異を見いだした。この変異はPML-RARAの亜ヒ酸感受性と関わっていた。最近この部位は亜ヒ酸結合領域としてPMLオリゴマー形成に関わると報告されており、この所見とあわせると亜ヒ酸はPML-RARAを標的とする治療法であるといえる。
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