【目的】申請者らは関節リウマチ(RA)に特異的な自己抗体を見出し、その対応抗原として、カルシウム依存性システインプロテアーゼ(カルパイン)の特異的内在性阻害因子カルパスタチン、およびホリスタチン関連蛋白(FRP)を報告してきた。申請者らはこれら自己抗原の炎症・骨破壊抑制効果を追究し、RAの新たな病態解明と治療戦略の確立を目指している。本年度は、T細胞分化とサイトカイン産生におけるカルパイン・カルパスタチンの関与、カルパイン・カルパスタチン過剰発現系によるコラーゲン誘発関節炎(CIA)の制御を検討した。【方法】1)Th1、Th2およびTh17細胞分化過程におけるカルパインとカルパスタチンの発現を免疫プロット法で解析した。2)ヒトカルパインまたはカルパスタチンcDNAを組み込んだレトロウイルスベクターをマウス脾細胞のCD4+T細胞にトランスフェクトさせた。この遺伝子導入T細胞をTh1、Th2およびTh17条件下で培養し、サイトカイン産生とT細胞分化に関わる転写調節因子の発現を検討した。3)カルパスタチンまたはカルパイン遺伝子導入T細胞をCIAマウスに移入し、関節炎発現への影響を検討した。【結果】1)カルパスタチンの発現はTh1細胞においてTh2細胞およびTh17細胞よりも減少しており、特に活性化Th1細胞での減少が著しかった。2)カルパスタチン過剰発現CD4+T細胞ではTh1条件下でのインターフェロンγ産生、Th-17条件下でのTh-17産生が抑制され、これらは各々のT-bet(Th1)とRORγ(Th17)発現低下と一致した。これに対し、カルパイン過剰発現CD4+T細胞ではこれらのサイトカイン産生への影響は少なかった。カルパスタチンによるTh17細胞のRORγ抑制はSTAT3のリン酸化の阻害によると考えられた。3)カルパスタチン過剰発現T細胞を移入したマウスでは関節炎の発現が有意に抑制されたのに対し、カルパイン過剰発現細胞は関節炎を増悪させた。【結論】以上の成績はカルパインとカルパスタチンのバランスがサイトカイン産生に影響を与え、Th細胞分化を制御する可能性を示唆した。さらにカルパスタチンの関節炎発現抑制効果をin vivoでも証明した。
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