研究課題/領域番号 |
22390201
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三森 経世 京都大学, 医学研究科, 教授 (10157589)
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キーワード | カルパイン / カルパスタチン / フォリスタチン関連蛋白 / 自己抗体 / 自己免疫疾患 / T細胞分化 / サイトカイン / 破骨細胞 |
研究概要 |
申請者らは関節リウマチ(RA)に特異的な自己抗体を見出し、その対応抗原として、カルシウム依存性システインプロテアーゼ(カルパイン)の特異的内在性阻害因子カルパスタチン、およびフォリスタチン関連蛋白(FRP)を報告してきた。これら自己抗原の炎症制御効果を追究し、RAの新たな病態解明と治療戦略の確立を目指している。本年度は、T細胞分化、サイトカイン産生、破骨細胞分化におけるカルパイン・カルパスタチンとFRPの関与を検討した。 1.T細胞分化におけるカルパインの関与 ヒトカルパインまたはカルパスタチンcDNAを組み込んだレトロウイルスベクターをマウス脾細胞のCD4+T細胞にトランスフェクトさせた。この遺伝子導入T細胞をTh1、Th2およびTh17条件下で培養し、サイトカイン産生とT細胞分化に関わる転写調節因子の発現を検討した。カルパスタチン過剰発現CD4+T細胞ではインターフェロン・産生、IL-17産生が抑制され、それぞれT-bet(Th1)、ROR・(Th17)発現低下と一致した。これに対し、カルパイン過剰発現CD4+T細胞ではこれらのサイトカイン産生への影響は少なかった。カルパスタチンによるTh17細胞のROR・抑制はSTAT3リン酸化の阻害によると考えられた。以上の成績はカルパインとカルパスタチンのバランスがサイトカイン産生に影響を与え、Th細胞分化を制御している可能性を示唆した。 2.サイトカイン産生能におけるFRPの関与 本研究と関連する一連の研究より、FRPがTLR4の共役受容体であるCD14と結合する新知見を得たため、FRPがCD14とTLR4を介して自然免疫反応を惹起する可能性を検討した。野生型マウス由来脾細胞では、添加したマウスFRPの濃度に依存してIL-6産生が増加するのに対し、TLR4ノックアウトマウス由来脾細胞では無反応であった。TLR4シグナルに必要な3分子(CD14、MD2、TLR4)を欠損するヒトHEK293細胞ではヒトFRPによるIL-8産生は見られないが、3分子を導入すると産生増加するのに対し、CD14を除く2分子のみの発現では無反応であった。免疫系におけるFRPの作用は自然免疫系では炎症反応を促進し、この場合の受容体がCD14を介したTLR4であることを解明した。 3.破骨細胞誘導分化におけるカルパインの関与 健常人末梢血より分離した単球にM-CSFとRANKLを添加して培養し、破骨細胞分化を誘導した。この破骨細胞培養系にカルパイン阻害薬およびヒトカルパスタチンを添加すると破骨細胞数と骨吸収能は減少し、マウスモノクローナル抗カルパスタチン抗体により増強され、破骨細胞の分化と活性にカルパインが関与する可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H23年度においては、カルパイン・カルパスタチンおよびFRPのサイトカイン産生能、T細胞分化、破骨細胞形成能に与える影響を計画し、これらに沿って概ね目的を達成することができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
RA自己抗原として同定されたカルパスタチンおよびFRPの免疫機能や炎症における役割についてはまだ不明の点が多いが、本研究によってかなり解明が進んだと考えられる。今後はこれらの成果をヒト疾患(関節リウマチや全身性自己免疫疾患)の制御に応用できるかを検討する必要がある。予備的検討では既にこれらの分子の導入によるマウス関節炎モデルでの炎症抑制効果を確認しているが、今後ヒトへのTransklational Researchをめざして、十分な前臨床試験を重ねていく必要がある。
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