研究概要 |
本年度は,高親和性IgE受容体(FcεRI)β鎖のマスト細胞カルシウムシグナルについての機能解析を行なった。FcεRIを介したマスト細胞の活性化時に惹起される細胞内カルシウム濃度の上昇は,その大部分をFcεRIγ鎖のITAMに依存していることが明らかになった。しかしながら,γ鎖ITAM非依存性に細胞内カルシウム濃度を上昇させる分子機構が存在していることが同時に明らかとなり,FcεRIβγ鎖ITAMのco-transfectantを用いた解析結果から,β鎖ITAMがγ鎖ITAM非依存の細胞内カルシウム動態を惹起していることを突き止めた。以上の結果は,これまでY鎖ITAMによるシグナル伝達を正と負に制御する分子として考えられていたβ鎖が,Y鎖とは非依存にシグナルを活性化する能力を保持していることを初めて明らかにしたものである。また,ヒトマスト細胞にFcεRIβ鎖を過剰発現させた細胞の解析結果からは,β鎖の発現の高いマスト細胞ではFcεRIα鎖と細胞表面に会合して存在するのみならず、細胞内にα鎖と会合せず存在する事が分った。細胞内β鎖の役割を調べる目的にて改良型アデノウイルスベクターを用いてヒト末梢血由来培養マスト細胞に強制発現をさせた。ウイルスのMOI数依存性にβ鎖タンパクはマスト細胞に導入されたが、細胞表面のα鎖発現はMOI 300においてもわずか1.6倍までしか増加せず、細胞内にβ鎖タンパクは蓄積した。MOI 0.1でわずかにFcεRIの架橋による脱顆粒は増強されたが、それ以上のMOIでは脱顆粒は抑制された。共焦点顕微鏡を用いた検討では強制発現したp鎖はLynと会合し、細胞内シグナルに対して競合的に働いていることが示唆された。 関節炎発症におけるβ鎖の役割を明らかにする目的で,i.v.によるマスト細胞欠損マウスへβ鎖欠損マスト細胞の養子移入実験を行なった結果,β鎖欠損マスト細胞のマスト細胞欠損マウスの膝関節局所への生着は認められたものの,関節炎の発症が誘導されなかった。これはマスト細胞の生着に10週間程度要したため,マウスにおける関節炎に対する感受性そのものが低下したものと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,マスト細胞活性化におけるFcεRIβ鎖の機能についての解析をマウスおよびヒトマスト細胞を用いて行なう。近年,FcεRIを介さないマスト細胞活性化機構において,FcεRIγ鎖の関与が示唆されているために,EGCGや重金属によるマスト細胞活性化機構におけるβ鎖の関与についても視野に入れ,検討する。関節炎については,膝関節への直接投与などの投与系の変更を試みることで改善を図る。
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