IgEレセプター(FcεRI)は、α、β、γ鎖により構成されているが、この中でマスト細胞と好塩基球に特異的に発現し、IgEによるその活性化を正・負両方向に調節する役割を担うβ鎖を標的にして、本年度も昨年度に引き続き、シグナル伝達、β鎖ノックアウトマウス等を駆使した個体レベルの解析を行なった。 1.重金属によるマスト細胞の活性化機構におけるFcεRI発現およびβ鎖の関与について解析を行なった結果,FcεRIβγ DKO BMMCにおける金イオン(HAuCl4)による脱顆粒、細胞内Ca2+流入は野生型 BMMCとの有意な差異を認めなかったことから、金イオンによるマスト細胞の活性化にはFcεRI発現およびFcεRI近傍のシグナル伝達経路は必須では無いことが明らかとなった。 2. β鎖欠損マウスから採取したBMMCに変異型β鎖を導入し、マスト細胞欠損マウスの膝関節に直接移入し、このマウスを用いての関節炎モデルによるβ鎖のin vivoでの機能解析を試みたが,マスト細胞の滑膜組織への定着にかなりの週数を要するために,抗II型コラーゲン自己抗体による関節炎の発症は認められなかった。現在,KBx/Nマウスの血清投与による関節炎モデルを検討している。 3.αγ2型のFcεRIを主に発現する末梢血由来培養ヒトマスト細胞を作成し、FcεRIの凝集後の脱顆粒および脂質メディエーターの産生、ケモカイン産生、炎症性サイトカイン産生に及ぼす影響を検討した結果,抗FcεRIα鎖モノクローナル抗体(CRA1)刺激による脱顆粒、プロスタグランディンD2産生、サイトカイン産生、細胞表面のFcεRIの発現は,β鎖鎖をノックダウンしたαγ2型ヒトマスト細胞において統計学的有意に抑制された。これらの結果から,β鎖鎖はヒトマスト細胞においてIgE依存性の刺激の増幅因子として働くことが明らかとなった。
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