研究課題/領域番号 |
22390206
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
野阪 哲哉 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30218309)
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研究分担者 |
北村 俊雄 東京大学, 医科学研究所, 教授 (20282527)
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キーワード | MLL / 白血病幹細胞 / がん幹細胞 / 造血幹細胞 / 白血病モデルマウス / PLZF |
研究概要 |
loxP配列を用い、定常状態ではMLLキメラ遺伝子は発現せず、Cre リコンビナーゼを発現させた場合のみ、MLL-ENL遺伝子が発現するトランスジェニック(Tg)マウスを作製した。このTgマウスの骨髄細胞からCD34-KSL (c-kit+Sca1+Lineage-) 分画(造血幹細胞)とCD34+KSL分画(造血前駆細胞)を単離し、Cre発現レトロウイルスを感染させて、それらの細胞集団にMLL-ENLを誘導発現させ、colony 継代assayを行ったところ、MLL-ENLは造血幹細胞のみをtransformした。そして、cDNA microarray解析により、造血幹細胞特異的に発現している遺伝子PLZFを同定した。PLZF遺伝子は生殖細胞で自己複製への関与が知られている転写因子であり、MLL-ENL発現によってその発現が増加し、レトロウイルスベクターを用いたshort hairpin-RNA発現によるPLZFノックダウン実験では、MLL-ENLが造血幹細胞をtransformする活性が低下した。同様の現象はin vivoの二次移植実験においても観察された。さらに、野生型PLZF遺伝子を強制発現すると、マウス骨髄細胞が不死化され、ポリコーム分子Bmi-1との相互作用が消失する変異体では不死化は起こらなかった。以上の結果は、MLL-ENLによる造血幹細胞のtransformationにおいて、PLZFが重要な役割を果たしていることを示唆する。さらに、MLL-ENLにより発現が増強する別の造血幹細胞特異的発現遺伝子Bにも着目し、本年度予算を一部繰り越して、当該遺伝子のコンディショナルノックアウトマウスを作製した。現在Floxedホモの状態で、Cre誘導の準備完了である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載された遺伝子Aは自己複製関連転写因子PLZFであり、同遺伝子のMLL白血病への関与に関する機能解析はほぼ完了し、現在、投稿(リバイス)中である。他に遺伝子Bも同定し、こちらはコンディショナルノックアウトマウスを作製した。後者は当初の予定より若干遅れ気味だったので、マウス作製費用を一部次年度に繰り越したが、無事B遺伝子に関するFloxedホモマウスが完成した。
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今後の研究の推進方策 |
上記結果は、従来のレトロウイルスによる強制発現実験により報告されてきた、MLLキメラ遺伝子は造血幹細胞及び造血前駆細胞の分化を阻害し、自己複製活性を賦与することによって、白血病を発症させるという概念と異なり、正常造血幹細胞の不死化/異常増殖を促すことによってがん化する、という可能性を示唆する。MLLキメラの標的遺伝子として、Hox遺伝子群、Meis1が明らかにされているが、我々が新たに同定した自己複製関連転写因子PLZFや、今回我々がコンディショナルノックアウトマウスを作製した遺伝子Bは、Hox、Meis1とは異なる経路を介するがん化機構を担う可能性もあり、今後の更なる解析が期待される。興味深いことに、東大の黒川らのグループはMLL関連白血病の中に、造血幹細胞で高発現し、予後不良因子として知られるEvi-1遺伝子の発現が高いサブグループが存在することを報告しており、我々の結果とともに総合的に解釈すると、MLL関連白血病の少なくとも一部は幹細胞白血病と言えるだろう。幹細胞白血病としての特性解析やそれに関する分子標的療法の開発が難治性乳児白血病の克服における重要課題の一つであると考えられた。
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