小児期には原因不明の急性脳症に遭遇することがある。有機酸・脂肪酸代謝異常症は何かのストレスを機に急性発症することが多いことに着目して、原因不明の小児の急性脳症との関連性について検討した。平成22年度以下の研究成果を得た。 1)有機酸・脂肪酸代謝異常症の診断と発症形態の調査:2001~2010年の間に診断した、有機酸代謝異常191例と脂肪酸代謝異常67例の発症形態を調べた。有機酸代謝異常では新生児期発症が191例中66例、乳幼児期以降~成人期が94例、未発症例が31例(スクリーニング)であった。脂肪酸代謝異常67例では、新生児発症は12例で、乳幼児以降~成人期が43例、未発症例(スクリーニング)12例であった。スクリーニングで発症前に診断された症例の転帰は発症してから診断された症例に比べて明らかに良好であった。 2)In vitro probe assay:タンデムマスと培養細胞を組み合わせた脂肪酸代謝異常の診断法を用いて、発熱ストレスによるβ酸化系への影響を調べた。長鎖脂肪酸代謝の脆弱な細胞では、高熱の状態で長鎖脂肪酸の代謝が阻害されることが明らかになった。またベザフィブレートという高脂血症治療薬を培養液に添加して実験を行ったところ、脂肪酸代謝障害が矯正されることがわかった、治療に応用したい。急性脳症治療に応用できるかもしれない。 3)酵素タンパク・遺伝子解析:グルタル酸血症1型19例の分子解析を行った。遺伝子変異よりも発症時期によって後遺症の重症度が影響されることがわかった。新生児スクリーニングの重要性が示された。 次年度は、質量分析による生化学診断を進めて、日本とアジア諸国の患者の比較、in vitro probe assayによる脂肪酸代謝病態の解析をさらに進めてゆきたい。
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