1.新生児マウスへの遺伝子導入 生後1-2日目のC57BL6のマウスを対象に各種ベクターを経静脈に投与し組織分布を調べた所、9型或いは10型のAAVベクターが血液脳関門(BBB)を通過して中枢神経組織に高率に安定して遺伝子導入できることが明らかになった(Brain Res印刷中)。ウイルスベクターは成体マウスのBBBは通過できないことから、新生児期のBBBは機能的に未成熟なのか、新生児期特異的な通過機構(Transcytosis)が存在するものと考えられた。これらの結果を元に、9型AAVベクターによる異染性白質ジストロフィー(MLD)モデルマウスの新生児遺伝子治療の実験を行っている。低ファスファターゼ症(Hypophosphatasia、HPP)は組織非特異型アルカリフォスファターゼ(TNALP)の欠損により起こる、骨の石灰化不全、ビタミンB6(PLP)依存性の痙攣などを特徴とする遺伝性骨系統疾患である。TNALPノックアウトマウスは骨の形成不全と痙攣重積のために生後2週間で死亡する致死型HPPモデルと考えられている。新生児HPPマウスに骨への親和性を高めるため10分子のアスパラギン酸を付加したTNALP-D10を発現するレンチウイルスベクターを投与したところ痙攣の抑制、骨化の改善とともに著明な延命効果が認められた。これは致死型の遺伝病に対する新生児遺伝子治療の有効性を示した最初の例である(JBMR(2011))。 2.胎児マウスへの遺伝子導入 マウス胎児への遺伝子導入法として、腹腔内へのベクター投与を試みている。現時点では胎児期遺伝子導入マウスの約半数は正常に出産し成長できている。AAVベクターの体内分布の測定では心臓、骨格筋などへの高い導入効率に加え、中枢神経系への遺伝子導入も確認された。現在、MLD及びHPPモデルマウスに対する胎児遺伝子治療の実験を開始している。
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