研究課題/領域番号 |
22390212
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
島田 隆 日本医科大学, 大学院・医学研究科, 教授 (20125074)
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キーワード | 遺伝子 / 遺伝子治療 / 遺伝病 |
研究概要 |
重篤な乳児型低フォスファターゼ症(HPP)のモデルと考えられているTNALP(組織非特異型アルカリフォスファターゼ)ノックアウトマウス(HPPマウス)に対する新生児遺伝子治療の可能性を検討した。我々は既に、酵素補充療法の臨床試験で使われている10分子のアスパラギン酸を付加した骨親和性TNALP(TNALP-D10)を発現するレンチウイルスベクターによる遺伝子治療の有効性を報告している。本研究では現在多くの遺伝子治療臨床研究で使われているアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの有用性を検討した。更に、野生型(TNALP-N)とアスパラギン酸ペプチドを持たない可溶性(TNALP-F)のTNALPの治療効果を比較した。AAV-TNALP-D10を新生児HPPマウスの経静脈から投与した結果、血中のALP活性は高値を維持し、痙攣は抑制され、著明な延命効果が認められた(5/6)。骨化は改善し、外見や運動機能も野生型マウスと差を認めなかった。AAV-TNALP-F投与群においても高い血中ALP値が維持され、延命効果が認められた(7/9)。一方、AAV-TNALP-N投与群では軽度のALP上昇が認められ、延命効果も限定的であった(5/17)。これらの結果はAAVベクターを使った遺伝子治療により、高い血中ALP値を持続できる場合には骨親和性を持たないTNALPでもHPPの治療が可能であることを示している。最近、TNALPD10を使った酵素補充療法の臨床研究で有効性が報告されている。しかし、酵素補充療法は、酵素製剤が生体内で直ぐに分解されてしまうため、大量の酵素を生涯に渡り繰り返し投与しなくてはならない。従って、医療費は極めて高額となり、患者の精神的、肉体的負担も大きい。ベクターの一回投与で長期間治療効果が持続できる遺伝子治療は重篤なHPPの治療法として重要な選択肢になると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
技術的に困難な新生児への遺伝子導入法を確立し、劇的な治療効果が確認できた。AAVベクターの全身投与は最近、ヒトの血友病の遺伝子治療でも使われており実用的な手技となっている。HPPの新生児遺伝子治療の実用化を急ぎたい。
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今後の研究の推進方策 |
HPPの新生時遺伝子治療の動物実験に成功した。重篤なHPPは胎児期に発見されることも多く、胎児治療が重要な選択肢となる。現在、HPPモデルマウスの胎児遺伝子治療の可能性を検討している。更に、新生児未熟児医療を担当している小児科医や患者家族とも協力して倫理的問題も考慮した周産期治療体制の構築を進めていきたい。
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