研究概要 |
母胎間LIFシグナルリレーが正常神経発生において機能する生理的なネットワークであることを明らかにするため,以下のような検討を行った。母体LIF刺激後の胎児大脳におけるDNAマイクロアレイ解析により,141遺伝子の発現亢進,10遺伝子の発現低下(1.5fold>)が確認され,そのうち神経発生に関連する25遺伝子について検討を進めている。特に,インスリン様成長因子1および2(IGF-1,2)について以下の検討を行った。正常ラット胎児脳脊髄液中のLIF,IGF-1,2濃度を計測したところ,LIFのピークが胎齢15日に認められ,IGF-1,2のピークはともに胎齢16-17日に出現した。また,胎児脳室内へLIFを注入すると,胎児背側大脳においてIgf1,2mRNAの発現が亢進した。一方,胎児脳室内に抗LIFR中和抗体を注入することで,母体をLIF刺激しても胎児大脳におけるIgf1,2mRNAの発現亢進は抑制された。胎児腹腔内に投与したビオチン標識IGF-1が脳脊髄液から検出されなかったことから,IGF-1の血中から脳脊髄液への移行は無いと考えられた。さらに,母体からのLIFシグナルにより胎盤から誘導される副腎皮質刺激ホルモンが,胎児赤芽球の分化調節に関与していることが明らかとなった。その受容体であるメラノコルチン受容体1-5全種類の役割について培養赤芽球を用いて検討した。その結果,各受容体が分化ステージ選択的に機能している可能性が示唆された。Pomc shRNAを組み込んだノックダウンベクターを用いた胎盤選択的なノックダウンモデルの確立については,条件設定の検討を行っているが十分な実験効率が得られるまでには至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
母体LIF刺激に対する胎児大脳における遺伝子発現の網羅的解析については,現在25種類の候補遺伝子が得られている。そのうちIGF-1,2の役割に関する研究が大きく進展した。LIFシグナルネットワークに対する機能阻害実験については,LIF受容体中和抗体によるin vivo阻害実験系が確立され,LIFシグナルが生理的ネットワークであることを示唆する結果が得られた。LIFシグナルネットワークによる赤血球の分化制御については,分子レベルの知見が多数得られた。胎盤選択的なノックダウンモデルの確立には至らず,更に条件を詰める必要がある。 以上より,研究はおおむね順調に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
LIFおよびIGF1,2の胎児体液中におけ濃度変化について,各日齢において更に詳細に計測する。LIFシグナルネットワークの機能阻害実験については,IGF受容体およびFGF受容体の中和抗体を用いて検討する。IGF受容体の発現部位に関する解析を継続して行う。過剰量のLIF刺激に対する胎盤および胎児におけるレスポンスについて検討を行う。胎盤ACTHの発現をコントロールするために,胎盤選択的Pomcノックダウンシステムの構築について継続して取り組む。ノックダウンモデルマウスの確立が順調に進まない場合,すでに系統化されているMC5Rノックアウトマウスの導入,あるいはその胚を用いたキメラマウス作製なども視野に入れて対応する。
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