研究課題
本研究の目的は、自閉症の病態において脳内コリン系の果たす役割を明らかにすることにある。平成22年度は、自閉症者の脳内コリン系における障害の有無をPETで調べた。【対象と方法】 対象は、18~25歳の自閉症者20名である。いずれも薬物療法を受けたことがないか、または研究開始前の少なくとも6ヶ月間は薬物療法を受けておらず、てんかんを含め神経疾患の罹患・既往がないことを確認した。自閉症の診断は、DSM-IV-TR、および、自閉症研究において国際的に最も頻用されている診断面接法であるAutistic Diagnostic Interview-revised (ADI-R)により行った。対照には、性、年齢、IQ、社会階層を適合させた健常者20名をあてた。全ての対象者に本研究の目的、方法、研究の危険性等について説明文書をもとに説明し、本人と保護者から文書による同意を得た。PETスキャンには、頭部専用PETスキャナSHR12000(浜松ホトニクス社製)を用いた。PETトレーサーとしてアセチルコリンのアナログ[^<11>C]MP4Aを用い、5MBq/kg[体重]の用量で静脈内に投与し、62分間連続撮像した。得られたPET画像より、小脳を参照領域としたReference tissue-based linear least-squares法に従い全脳における[^<11>C]MP4Aの分解速度(k_3値)を算出し、これをコリンエステラーゼ活性の指標とした。PET画像解析ソフトウェアPMODによりk_3値の3次元パラメトリック画像を作成し、ソフトウェアStructural Parametric Mapping (SPM)による統計学的解析に供した。【結果と考察】 自閉症者と対照との[^<11>C]MP4Aのk_3値を全脳で比較したところ、両側側頭葉の下面、とりわけ「顔」認知に重要な紡錘状回において、自閉症者で有意に低下しており、同部位におけるコリンエステラーゼ活性の低下が示唆された。この紡錘状回におけるコリンエステラーゼ活性の低下は、ADI-Rにより示される社会的相互反応の質的障害の重症度と逆相関していた。すなわち、紡錘状回におけるコリン系の障害が強いほど、社会性の障害が強いという相関関係があることが明らかになった。この成果は、精神科領域で最も権威のある学術誌のひとつである、Arch Gen Psychiatry誌(2011年3月号)に掲載された。
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Arch Gen Psychiatry
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