研究課題
本研究の目的は、臍帯血を用いた自閉症の「血清生化学的診断法」の開発、および、血液、毛根、口腔内スワブなどの検体を用いた自閉症の「遺伝子診断法」の開発にある。平成23年度は、以下の研究を実施した。(1)血清生化学的マーカー探索の一環として、高機能自閉症児23例(年齢9~17歳)と定型発達児22例(年齢8~17歳)を対象に、空腹時に採取した静脈血より血漿を調整し、サスペンジョン・アレイ法を用いて41種のアミノ酸、および、アミノ酸関連物質の血漿中濃度を網羅的に測定した。何らかの薬物療法を受けている者、他の精神疾患やてんかんを合併する者、および、IQが70以下の者は除外し、性周期の影響を除外するために男児のみを対象とした。その結果、高機能自閉症児ではグルタミン酸が有意に増加し、グルタミンが有意に低下していた。ロジスティック回帰分析により、両者の血漿中濃度から自閉症診断のための判別式が得られ、その診断精度は感度90%、特異度91%であった。この結果は、これらのアミノ酸が自閉症の早期診断マーカーとなり得ることを示唆するものである。この研究成果については英文学術誌PLoS One誌に掲載された。(2)浜松医科大学出生コホートに登録された1200名について、臍帯血の採取と口腔内スワブによるDNA採取を継続中である。また、自閉症発症リスクとして重要な母親の精神症状である産後うつ病について、コホート登録者の母親を対象に調査を行い、母親の出産時年齢が30~35歳の場合に比べ、25歳未満の出産では産後うつ病発症リスクが2倍になることを明らかにした。この研究成果は英文学術誌Journal of Affective Disorder誌に掲載された。(3)日本人自閉症トリオ(当事者とその両親、100家系)のDNAサンプルについて、CNV (Copy number variation)多型の解析を継続中である。
2: おおむね順調に進展している
『9.研究実績の概要』に述べたとおり、各研究計画は当初の予定どおり進んでいる。
現時点において、日本人自閉症トリオDNAサンプルのCNV解析においては、既報のCNVに加え、多種多様なCNVが見出されている。その中には、いまだ機能の不明な遺伝子上のものも含まれており、それら遺伝子が自閉症の病態に果たす役割を明らかにするためには、当初の計画をはるかに超える詳細な機能解析研究が必要となる見込みである。
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PLoS One
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