研究課題/領域番号 |
22390224
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
岡田 元宏 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10281916)
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研究分担者 |
鈴木 昇 三重大学, 生命科学研究支援センター, 准教授 (00202135)
福澤 雅志 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (10231557)
齋藤 浩充 三重大学, 生命科学研究支援センター, 助教 (50303722)
溝口 明 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90181916)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | てんかん / 遺伝子改変モデル動物 / ノックダウンマウス / トランスジェニックラット / イオンチャネル / カルシウム / アセチルコリン / 抗てんかん薬 |
研究概要 |
常染色体優性夜間前頭葉てんかん家系から同定された、中枢性ニコチン性アセチルコリン受容体のα4サブユニットをコードするCHRNA4遺伝子のS284L変異に相同する、ラットChrna4遺伝子のS286L変異遺伝子を導入した、トランスジェニックラットを作出した。このトランスジェニックラットはラットChrna4遺伝子の発現調整(プロモーター)領域イントロンをも同時に導入していることから、構造的妥当性は確保されている。このダブルトランスジェニックラットは、常染色体優性夜間前頭葉てんかん患者の主要発作、episodic nocturnal Wandering, nocturnal paroxysmal dystonia, paroxysmal arousals を獲得し、同時に脳波によるictal およびinterictal dischargeの獲得をも確認したことから、常染色体優性夜間前頭葉てんかんモデルとしての表現的妥当性も確定した。また、S284Lを有する常染色体優性夜間前頭葉てんかん患者は抗てんかん薬カルバマゼピン耐性であるが、ゾニサミドによって発作は抑制されるが、本ダブルトランスジェニックラットも同様にゾニサミドによって発作抑制が観察され、予測的妥当性も確定された。今後、責任遺伝子がepileptogenesisに関与しているのか、ictogenesisに関与しているのかを確定するために、導入遺伝子を外来薬物で調整できるダブルトランスジェニックラットの作出・系統維持し、分子生物学的研究を行う予定である。 特に、既存抗てんかん薬が発作抑制効果だけではなく、発症予防効果も有しているか否かを検討すると同時に、責任遺伝子の機能制御による発症予防と完全寛解への達成の確認が最重要課題と考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
作出したモデル動物(トランスジェニックラット)の、てんかん発作発現確認までは順調であったが、系統維持を進める過程で、発作頻度が系統内でもばらつき、発作抑制法の開発スクリーニングに支障をきたしつつある。現在、遺伝子改変モデル動物の再作出を進め、発作頻度の個体間ばらつきの原因を探索している。この原因は、責任遺伝子(導入遺伝子)情報に基づいた変異タンパクの発現量に依存するのではなく、むしろ他の機能変異によるものである可能性が高い結果が得られている。この点は、投与の仮説に従うものであるが、発作頻度のばらつきは想定外であり、発作頻度を一定に保ちうる系統の確立には想定期間以上の時間を要する可能性が高く、現時点では、当初の計画と比較して多少の遅れは否めない。しかし、逆説的ではあるが、発作頻度が少ない系統と、発作頻度が高い系統を確立することで、より系統的な解析が可能となることは十分想定できる事項でもあり、一部実験計画の変更には迫られているが、より科学的な価値の高い結果が得られる可能性もある。 また、ノックダウンマウスも用いた実験は当初の目標を達成し、非けいれん性てんかん発作に対して、選択的抑制作用を有する新規非けいれん性てんかん発作抑制薬の候補低分子化合物の同定に成功し報告した。有効な抗てんかん作用のスクリーニングに続く、臨床開発に必要な基礎データーの取得をめざし、研究計画をさらに進展する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
第一期に作出した、モデル動物(トランスジェニックラット)の、発作頻度が系統間で明らかに異なり、継代することで発作頻度が減少してきていることから、導入遺伝子の脱落が主な原因である可能性が高いと推察したが、第二期のモデル動物では、同一系統間でも発作頻度が異なっていた。このため、現在導入遺伝子の、ゲノム上のコピー数解析と、発現遺伝子量の定量法を開発し、発作頻度との関連性解析を進める。この実験過程で、発作頻度の異なる系統の確立を進め、発作頻度が安定した複数系統の確立も試みる。系統確立後、発作頻度、ゲノムコピー数、導入遺伝子の発現量の相関解析を行う。また、この相関性が得られなかった場合を想定し、マイクロアレイを用いた、網羅的遺伝子発現解析も計画している。また、後述の非けいれん性てんかん発作に対する有効性が証明された低分子化合物の投与も行い、寛解率と発症予防法の解析も試みる予定である。 非けいれん性てんかんモデル動物(ノックダウンマウス)を用いた実験から、スクリーニングに成功した新規化合物に関しては、臨床開発に向けて必要な、新規治療薬候補物質の毒性試験(急性・慢性)、薬物動態、作用機序解析を行い、実用化に近づけるべく計画を進める予定である。特に、多くの中枢神経系機能性疾患の病態に関与することが想定されている、神経免疫学的な障害・変異に対する、神経発達過程の偏移をスクリーニングしうる実験系の確立を試み、新たな病態仮説と新規治療薬の開発ストラテジーの構築に寄与したい。
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