研究課題
諸研究の結果から、神経免疫の活性化がうつ病の原因ではないか、とする免疫仮説を立て、仮説実証的な実験を遂行してきた。以下にその結果を要約する。(1)まず、リポポリサッカライド(LPS)0.8mg/kgの単回投与により、摂食および飲水量は減少し、24時間後でも、自発運動量の低下を認めた。この時にマウス脳内ミクログリアの活性化は、視床下部弓状核・腹内側核・第三脳室終板・視索前域腹内側核、および孤束核、最後野において、48-72時間後に最高となっていた。(2)抗うつ薬パロキセチン・セルトラリンはインターフェロンγ刺激ミクログリアからのNOおよびTNFαの産生を抑制した。SSRIのNO産生抑制作用の細胞内メカニズムとしては、インターフェロンγによるミクログリア細胞内Ca濃度上昇を抑制し、その結果JAK-STATなど細胞内シグナル伝達系の活性化が抑制される機序が考えられた。ミクログリア上のセロトニントランスポーターは、これらSSRIのNO産生抑制作用に機能的な関わりを持たない可能性が考えられた。パロキセチン・セルトラリンはミクログリアからの炎症性サイトカイン・フリーラジカル産生を抑制することでうつ病に治療的に作用する可能性が考えられる。さらに、抗うつ薬の薬理作用を検討した。強制水泳試験(FST)の際に賦活される脳内部位を、c-Fosを標識として検索した。抗うつ薬イミプラミン10mg/kgの前投与により、FSTにおける無動時間が短縮した。いくつかの部位において、c-Fosの発現はimipramine投与群の方が多かった(分界条床核外側部背側核、分界条床核内側部後内側核、視交叉上核後野外側部など)。無動時間とc-Fosの発現とが負の相関を示す部位(分界条床核内側部後内側核、視交叉上核後野外側部、水道周囲灰白質腹外側部)と、正の相関を示す部位(視索前域外側野)とがあった。c_Fosの発現は、部位間で多くの相関がみられ、神経連絡とおおよそ対応するものであった。
2: おおむね順調に進展している
免疫負荷によるうつ病モデル動物を作成し、その脳内神経回路を同定した。また、抗うつ薬が作用する脳部位および回路を同定することができた。これらは、当初の計画にほぼそって到達した成果である。
最終年度は、うつ病における脳内ミクログリアの役割について、さらに詳しく掘り下げる予定である。具体的には、免疫負荷うつ病モデル動物で、抑うつ状態と相関するミクログリアの脳内活性化部位を同定し、抗うつ薬の作用を検討する。また、ミクログリア抑制作用をもつ薬物に、モデル動物での無動時間延長作用があるかを調べ、新規抗うつ薬のシーズとなる可能性を探索する。
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http://www.med.kyushu-u.ac.jp/psychiatry/