研究概要 |
うつ病の神経炎症仮説に基づき、一連の研究を行った。(1) lipopolysaccharideをマウスに投与してうつ病の動物モデルを作成した。①0.8mg/kg, i.p.の投与ののち、強制水泳試験の結果は、24時間後には有意な変化は見られなかったものの、7日後の無動時間は有意に延長しており、体重の変化と負の相関が見られた。②免疫組織化学法により、視床下部弓状核・腹内側核周辺、最後野・孤束核領域、およびその他の脳室周囲器官周辺領域において、ミクログリアの活性化(抗Iba-1抗体で標識される面積の拡大)が、48時間後まで遷延していた。③imipramineおよびminocyclineを用いて、このモデルにおける抑うつ行動の出現やミクログリアの賦活の抑制を試みたが、条件は確立できなかった。(2)マウスを用いて、強制水泳試験の際に活性化される神経回路、および抗うつ薬(imipramine)の前投与によって活性化される部位を、転写因子c-Fosを標識として同定した。水泳によって賦活されるのは、外側中隔核、水道周囲灰白質腹外側部、視床室傍核等の部位、抗うつ薬によって賦活されるのは、分界条床核背側外側部、水泳中にのみ抗うつ薬によって賦活されるのは、視床下部弓状核などであった。(1)の結果と考え合わせると、弓状核が抑うつ行動の形成および抗うつ効果の発現において重要である可能性が示唆された。(3) 抗うつ薬パロキセチン・セルトラリンはインターフェロンγ刺激ミクログリアからのNOおよびTNF- αの産生を抑制した。これらの薬剤がミクログリアからの炎症性サイトカイン・フリーラジカル産生を抑制することで治療的に作用する可能性が考えられた。これらの研究結果から、うつ病と神経炎症の関係について、さらに新たな知見がもたらされた。
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