研究概要 |
ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)陽性胃癌患者において、標準的な化学療法にヒト化モノクローナル抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン)を追加することで生存期間の有意な延長が認められる。抗体医薬品の作用機構の主体は抗体結合による細胞内シグナル伝達の阻害であるが、免疫細胞によるADCC(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity、抗体依存性細胞介在性障害作用)もその治療効果に関与していると考えられている。本研究では、癌細胞表面にシグナル伝達機能を持たない標的分子の細胞外ドメイン(ECD、extracellular domain)のみを人工的に過剰に発現させ、HER2分子の細胞外領域のエピトープ(aa529-625)を認識するトラスツズマブの結合を促進し、ADCC活性を選択的に増強させることでHER2陰性胃癌患者に対する新たな治療戦略の開発を目指す。 HER2低発現ヒト乳癌細胞にHER2の細胞外ドメイン(ECD)発現プラスミドをトランスフェクトし、HER2/ECD安定発現株を樹立した。ウエスタンブロット解析およびフローサイトメトリー解析にて、目的とする蛋白質の発現とトラスツズマブの認識エピトープが膜表面に発現していることを確認した。HER2/ECD発現乳癌細胞株のin vitroでの増殖を比較したところ,全長HER2導入細胞では増殖が促進されたが、HER2/ECD導入胃癌細胞では細胞増殖への影響はみられなかった。また、トラスツズマブ存在下に末梢血単核球(PBMC)のHER2/ECD導入乳癌細胞および胃癌細胞に対する^<51>Cr遊離アッセイを行ったところ、ECD発現細胞では抗体がECDを認識してADCC活性の増強が認められた。さらに、効率よくHER2/ECDを標的癌細胞に導入するために、HER2/ECD遺伝子を組み込んだ非増殖型アデノウイルスベクターを作成した。次年度は、このAd-HER2/ECDを用いて乳癌、胃癌細胞株におけるADCC活性の増強を比較検討する。
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