申請者は、DHA/GPR40シグナルが骨髄MSCにおける神経細胞マーカーの発現に影響を与えるか否かに注目した。その結果、元来GPR40を発現する骨髄MSCは、通常の培養液に微量のDHAを添加することで、GPR40の発現増加と同期して神経細胞に分化していった。すなわち、ネスチン陽性の幹細胞は、β III-tubulinを発現した後、NF-M および Map2陽性のphenotypeへと成熟することが、証明された。未処置の骨髄MSC と比べ、bFGF 添加群ではGPR40のmRNAと蛋白の発現増加がみられた。さらに、GPR40のリガンドであるDHAを微量投与すると、GPR40の発現は低下し免疫組織学的局在は細胞膜表面から細胞質へと変化した。しかも、GPR40の発現低下と同期して、神経細胞マーカーの発現増加がみられた。 さらに、成体脳ニューロン新生の亢進を示す脳虚血ザルを用いてGPR40と転写因子であるpCREBの発現とそ の下流にあるBDNFの発現に関しても検索した。GPR40は虚血負荷後の第2週目に発現が亢進していたが、 pCREBも同様で、いずれも海馬のニューロン新生の増加の時期と一致していた。免疫組織化学的にもGPR40とpCREBの局在発現パターンはほぼ一致しており、歯状回下層(SGZ)の成熟ニューロンや新生ニューロン、星状膠細胞などに発現していた。GPR40/pCREBの2重陽性細胞は虚血15日目の SGZ において有意に増加していた。一方、mBDNFの前駆体であるproBDNFは虚血9日目にピークとなっていた。 以上の結果から、成体脳海馬においてPUFAによってニューロン新生が惹起されるためには、同じシグナル伝達経路内においてGPR40とpCREBおよびBDNFが連動していることが示唆された。 GPR40陽性の骨髄幹細胞は脳再生療法の開発に役立つものと思われる。
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