研究概要 |
本研究の目的は,難治性てんかんの新しい外科治療法としての脳局所冷却法を確立することである.微視的には温度変化に対する脳循環・代謝,細胞,分子の応答メカニズムを解析し,巨視的には個体の行動学的解析により治療の安全性を検証しつつ,不随意運動・難治性疼痛・精神神経疾患へのneuromodulationによる応用拡大,脳虚血・外傷に対する新たな保護治療開発を目指すものである. 23年度には以下の研究を行った。 1)大脳冷却時の生理機能解明,安全性の検証 ラットてんかんモデル及びてんかんの焦点切除術で,局所脳血流(laser Doppler法),糖代謝(glucose,lactate,pyruvate)と神経伝達物質(GABA,glutamate,dopamine)をmicrodialysis法で測定した.手術による切除部位に冷却を行ったため,手術後には冷却による神経症状への影響はないと推定されたが,高次脳機能検査を行い安全性を確認した.ただしneuromodulationによる治療,或いは脳機能モニタリングに大脳冷却法を応用し,脳虚血や脳機能低下に陥らない冷却条件で,かつてんかんを抑制する至適温度と冷却時間を設定するにはさらに症例を蓄積する必要があると判断した. 2)長期脳低温による高次機能変化の測定 ネコを用いた実験で,15℃までの大脳冷却を繰り返し行ったところ,脳機能は維持された.情動行動に関する行動評価でも冷却前とほぼ変わらなかった.ただし持続的な冷却の影響は測定できなかった. 3)低温環境での細胞増殖能・細胞機能の測定 脳血管内皮細胞を培養し,温度を変化させて電気抵抗値を測定した.15℃,1時間の低温暴露により電気抵抗値は下がり,その後37℃に戻すと数時間かけて抵抗値も元の値に戻った.内皮細胞の低温による変化が可逆性であることが示された.神経細胞,astrocyte,oligodendrocyte,microgliaの分離培養に成功した.これら細胞の温度による性質の変化(アセチルコリン,グルタミン酸,ドーパミン,GABAの標識で識別された各種神経細胞生存率の計測)はまだ行っていない. 以上により,Thermal neuromodulationコンセプト確立の最初のステップはほぼ順調にclearされた.
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