神経障害性疼痛の発現機序には、脊髄における増殖因子やサイトカイン、ケモカイン等が重要な役割を果たしていることが広く知られている。これまでの本研究の成果より、C-Cケモカインの一つであるmonocyte chemoattractant protein-3(MCP-3)の脊髄内ミクログリアにおいての発現が、神経障害性疼痛下において上昇することが明らかとなった。また、神経障害性疼痛下の脊髄におけるMCP・3の過剰発現は、IL-6欠損マウスではほとんど認められなかったことから、脊髄内ミクログリアにおけるMCP-3の発現は1L-6依存的に調節されていることを明らかにした。さらに、MCP3はケモカインレセプターであるCCR2に作用することから、神経障害性疼痛下におけるCCR2の発現変化についても詳細に検討を行ったところ、有意な増加が認められた。しかしながら、神経障害性疼痛下において脊髄内IL-6シグナルがどのようにMCP3の発現を制御しているかについては未だ不明な点が多く残されている。近年、様々な難治性疾患の発現メカニズムとしてゲノムに書かれた遺伝情報が変更されることなく、DNAメチル化やヒストン修飾により後生的に遺伝子発現が制御される、いわゆる「エピジェネティクス」現象が注目されるようになってきている。そこで本研究では、神経障害性疼痛下における脊髄内でのMCP-3過剰発現がDNAエピジェネティクス修飾によって制御されているか否かを検討した。その結果、神経障害性疼痛下ではMCP-3のプロモーター領域において、転写活性を抑制的に制御するH3K27トリメチル化の抑制、つまり転写活性の増強が引き起こされていることが明らかとなった。さらに、この変化はIL-6欠損マウスにおいて認められなかったことから、神経障害性疾痛下において認められるMCP-3 プロモーター領域におけるエピジェネティクス変化はIL-6依存的に引き起こされていることが示唆された.
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