研究課題/領域番号 |
22390300
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
成田 年 星薬科大学, 薬学部, 教授 (40318613)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / 慢性疼痛 / 脊髄 / ヒストン修飾 / microRNA |
研究概要 |
本年度は、平成23年度の成果を基盤にして末梢神経障害による中枢のエピジェネティクス変化という視点から痛み病態の統合的解析を行った。これまでに、神経障害性疼痛下の脊髄領域においてMCP-3のプロモーターにおける、転写活性を抑制的に制御するH3K27トリメチル化の抑制、つまり転写活性の増強が引き起こされていることを明らかにしている。さらに、この変化はIL-6依存的に引き起こされていることを示唆している。本年度において、脊髄内で発現上昇したMCP-3の局在を検討した結果、坐骨神経結紮により増加したMCP-3タンパク質は、GFAP陽性アストロサイト細胞上においてのみ発現していた。また、MCP-3リコンビナントタンパクを髄腔内投与することにより、疼痛閾値の低下や視床外側核、一次体性感覚野領域において脳機能の活性化が認められた。これらの結果は、末梢神経障害時の脊髄内アストロサイトにおいてIL-6依存的にヒストン修飾の変化を伴ったMCP-3の長期的な産生が誘導され、疼痛の維持または悪化に寄与していると考えられる。さらに神経障害性疼痛下におけるmiRNAの発現変化について検討を試みた。神経障害性疼痛下の脊髄におけるmiRNA発現変動について網羅的に解析を行った結果、著明な発現変動が認められた数種のmiRNAを確認した。さらに脊髄後根神経節におけるmiRNAおよび神経障害性疼痛モデルマウスの血液からエクソソームを抽出し分泌型 miRNAの変化を検討した。その結果、脊髄後根神経節において発現増加が認められた数種のmiRNAが、血中エクソソームにおいて著明に増加していた。以上の結果からmiRNAはエクソソームに内包されて血中に分泌され身体中に循環している可能性が示唆された。こうした結果より血中エクソソーム内で発現変動を示すmiRNAは神経障害性疼痛のバイオマーカーとなりうる可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究により、神経障害性疼痛下の脊髄におけるヒストン修飾の変化を伴った遺伝子発現変化の解析ならびにmicroRNAの変化の解明が順調に進んでいる。また、研究成果は、海外学術誌 Brain (IF:9.46) に受理され、日本経済新聞 (2013年1月22日)、日経バイオテク (2013年1月28日)、日経産業新聞 (2013年2月28日)、等に取り上げられ、国内外への情報提供にも繋がっているため、当初の計画以上の成果を挙げていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで申請者らは、慢性炎症性疼痛動物モデルにおいて麻酔下で functional MRI (fMRI) 法に従い画像解析を行い、視床、帯状回ならびに一次体性感覚野領域といった痛みの伝達経路の活性化が引き起こされることを明らかにしている。そこで本年度は、これまでに得られた慢性疼痛時で変動する遺伝子群のデータをもとに、それらの遺伝子に連動する蛋白質の機能を促進あるいは阻害する薬剤を脊髄内へ直接投与し、痛みシグナルの上行性経路の活性化を fMRI 法に従い、可視化する。こうした手続きにより、痛みを長期的に引き起こすトリガーとなる分子群を突き止め、難治性疼痛の新しい原因治療法の確立を提唱する。また、難治性疼痛患者から抽出した血中エクソソーム内miRNA発現の網羅的解析を行い、痛みのバイオマーカー探索を行う。
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