研究概要 |
精巣腫瘍のエピジェネティックス維持機構の解明を臨床応用への重要な課題と捕らえ、精巣腫瘍固有のメチルトランスフェラーゼの異常を検索する中でDNMT3L蛋白がヒト胎児性癌にきわめて特異的な新規マーカーであることを見出し、DNMT3Lの抑制により胎児性癌にアポトーシスを誘導できることがわかった(Clin Cancer Res 2010)。転移性精巣腫瘍の多くは化学療法と手術療法による集学的治療によって治癒可能であるが、20%に難治症例が存在する。この際に胎児性癌をいかにコントロールできるかが治療の成否を握っている。DNMT3Lが特異的に高発現している胎児性癌由来細胞株をもちいてDNMT3Lと結合する蛋白の質量分析(MS/MS)を行った。この結果いくつかの結合タンパク質の候補としてVASA遺伝子が考えられた。VASAは生殖細胞特異的に発現するDEAD-box型RNAヘリカーセで生殖細胞の発生・分化に必須であることが知られており、精巣腫瘍の新規マーカーおよび精巣腫瘍のエピジェネティックス維持機構における役割について検討中である。さらに野生型胎児性癌細胞株とDNMT3Lノックダウン細胞において発現遺伝子の差異について次世代シーケンサーでの比較を行っている。 一方精巣腫瘍についてLINE1,Alu領域でのメチル化での解析を網羅的に施行した。その結果、精巣腫瘍には体細胞由来の癌とは異なるレトロトランスポゾンのメチル化プロフィールが観察された。LINE1においてはセミノーマ、非セミノーマともに高度に脱メチル化されていた。またAlu配列においてはセミノーマ、非セミノーマとの間にメチル化パターンの差異を認めた。さらに精巣腫瘍固有のレトロエレメント脱メチル化パターンは精巣の発生した残存周囲精巣にも認められた。
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