研究概要 |
最終年度は精巣腫瘍における幹細胞遺伝子の発現や幹細胞類似のエピジェネティックプロフィールが精巣腫瘍の化学療法感受性を規定する因子となっている可能性について検討をおこなった。まず、われわれはDNMT3L蛋白がヒト胎児性癌にきわめて特異的な新規マーカーであることを見出し、DNMT3Lの抑制により胎児性癌にアポトーシスを誘導できることを証明したが、この胎児特異的メチルトランスフェラーゼが精巣腫瘍の分化にどのように関わりをもつかについて最終年度は研究を進めた。 予備実験により胎児性癌細胞株が溶媒基剤であるDMSO (Dimethyl Sulfoxide)にさらされると分化の乱れがおこり本来胎児性癌が発現しているDNMT3Lの発現が著しく減弱することがわかった。このため基礎実験にて各種の分化マーカーを同様の実験系で検討したところ以下の結果が得られた。DNMT3Lの減弱の呼応して幹細胞遺伝子であるSOX2およびNANOGも発現の減少を認めた。 さらにTRA-1, ファイブロネクチンの発現誘導もみられた。しかしヴィメンチンの発現は減少を認めた。これらの結果からDMSOは胎児性癌に対して一定の分化誘導の方向に働くことが予想されたが、正常な分化ではなく異常分化の方向へ誘導されていることが推測された。さらにDMSO添加時にCDDPに対する抗がん剤感受性の変化を検討したところあきらかにDMSO添加によりCDDPの耐性が現れることが確認された。さらにこれらの変化にはゲノム全体のメチレーションプロフィールを伴うことも確認された。精巣腫瘍のエピジェネティックスに関して国際誌に総説を記し、ここでは精巣腫瘍の化学療法感受性や多分化能といった興味深い生物学的特性を始原生殖細胞や胚性幹細胞にみられる弛緩したクロマチンという観点からの仮説提唱もおこなった。
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