研究課題/領域番号 |
22390308
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
倉智 博久 山形大学, 医学部, 教授 (40153366)
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研究分担者 |
太田 剛 山形大学, 医学部, 助教 (50375341)
澤田 健二郎 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00452392)
馬淵 誠士 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00452441)
高橋 俊文 山形大学, 医学部, 講師 (20302292)
須藤 毅 山形大学, 医学部, 助教 (70466605)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 卵巣癌 / 卵巣明細胞腺癌 / Trabectedin / ハニカム膜 / microRNA / 細胞増殖 / 細胞接着 / 卵巣癌幹細胞 |
研究概要 |
本研究の目的は、臨床的にも重要な課題である新たな分子標的治療の開発に向けた基礎的研究である。以下の3つの研究を遂行している。 1. 平成24年度にTrabectedinの卵巣明細胞腺癌に対する抗腫瘍効果を詳細に検討する中で、TrabectedinをCPT-11もしくはTopotecanと併用した場合、非常に強い相乗効果が発揮された。この現象はTrabectedinをCisplatin, Paclitacel, Doxorubicineと併用した際には観察されず、Trabectedin+CPT-11もしくはTopotecanに特有の現象と考えられので、これが様々な抗癌剤に耐性を示す明細胞腺癌に対して最も強い抗腫瘍効果し、有望なレジメンと考えられる(米国婦人科癌専門誌Gynecol Oncolに投稿中)。 2. 今回我々は、癌細胞が播種する際に腹腔内を浮遊し低酸素状態に陥ることに着目し、miRNA RT-PCR array 法で検討し、c-Met (肝細胞増殖因子受容体), mTOR (哺乳類ラパマイシン標的タンパク質), Caveolin 2 などの発現を制御するhsa-mir199a-3p(miR-199a-3p)の発現が著明に減弱すること、さらに、miR-199a-3pの前駆体を強制導入した所、卵巣癌細胞の接着能、浸潤能が有意に低下することをin vitroの実験系で証明した。 3. ハニカム膜による卵巣がん細胞の増殖抑制効果についても検討中である。ハニカム膜は、3D porous scaffoldとも言われ、細胞が接着、増殖していく上での足場となる。我々は、すでにこのハニカム膜を用いると、抗がん薬抵抗性である明細胞腺癌と粘液性腺癌の増殖が抑制されることを確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、臨床的にも重要な課題である新たな分子標的治療の開発に向けた基礎的研究であるが、上記の実績の通り研究計画はおおむね順調に進展している。今回我々は、癌細胞が播種する際に腹腔内を浮遊し低酸素状態に陥ることに着目し、卵巣癌細胞株CaOV-3 およびRMUG-Sを48時間1%O2 下に培養し、そのRNAを採取。20%O2 下に培養した細胞株よりのRNAとの比較検討をmiRNA RT-PCR array 法で行った。その結果、いくつかのmiRNA が両細胞株で低酸素刺激による発現の減弱を認めたが、本研究ではc-Met (肝細胞増殖因子受容体), mTOR, Caveolin 2 などの発現を制御する可能性がある hsa-mir199a-3p(miR-199a-3p)に着目し、上記の成果を得た。 本研究を進めるうえで、重要な事項は癌幹細胞を樹立することである。当初我々は、卵巣がん細胞株に Yamanaka factor (Oct4, Sox-2, Klf4, c-Myc)を導入することで、卵巣がん人工多能性癌幹細胞(iPC)を樹立する計画であったが、ハニカム膜上で卵巣癌細胞を培養することにより、癌細胞が幹細胞の性質持つようになる可能性が示唆されている。卵巣がん幹細胞に特異的な細胞表面抗原を同定し、flowcytometryを用いて癌幹細胞を分離する方法や、stem cell culture medium (Cancer Res 2008)で培養後卵巣がん幹細胞を樹立するといったような従来の方法に比較して、ハニカム膜を用いる方法は、純度の高い癌幹細胞を大量に培養できる可能性がある。今後の研究で、ハニカム膜上で培養した細胞が、幹細胞の性質を持っているのであれば、本研究は、著しく進展していくと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、今までの研究実績に基づいて、現在、CPT-11またはTopotecanによるTrabectedinの抗腫瘍効果の増強・耐性化の回避の現象とオートファジーの関連について検討する。その結論が得られれば、(1) オートファジーを促進もしくは抑制することによってTrabectedin + CPT-11またはTopotecan 併用療法の効果をさらに増強できるのか?、(2) 明細胞腺癌に限定的な現象なのか、もしくは他の組織型の卵巣癌にもあてはまる現象なのか?についての検討を行う予定である。 ハニカム膜上で培養することにより、胞増殖抑制効果を認めた粘液性腺癌由来卵巣癌細胞株Caov3と明細胞腺癌由来細胞株TOV21Gで次の実験を行う。(1)幹細胞の形態的特徴であるsphereの形成があるか否かを確認する。(2) 細胞骨格、細胞接着の変化を検討する。(3) sphere形成を認めた細胞を回収し、幹細胞マーカー(Nanog, Oct4, Sox-2, Klf4, c-Myc, BMI1, nestin, ABCG2)の発現状況をreal-time PCRとimmunoblotで確認する。(4)樹立した卵巣癌幹細胞の生物学的特性を検討する。卵巣癌幹細胞の遺伝子発現をマイクロアレイで解析する。解析を行う遺伝子は、①細胞表面抗原、②サイトカイン, 腫瘍壊死因子、上皮成長因子、インスリン様成長因子など、③ GTP結合タンパク質であるRas, 増殖因子シグナルのmitogen-activated protein kinase (MAPK), 生存因子シグナルのAkt、非受容体型チロシンキナーゼであるSrcなどである。 以上の検討で得られた結果を取りまとめて学会および誌上発表を行う。
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