研究概要 |
臨床の場での利用が可能な偏光ドップラー・前眼部三次元光干渉断層計(optical coherence tomography,OCT)装置の開発を行った.本装置はこれまでに研究してきた複屈折トモグラフィーおよびドップラートモグラフィーの原理を用いた小型・安定化トモグラフィー装置である.従来の偏光OCT装置はバルク光学系を必要とする光学装置であり,臨床の場に設置することは不可能であった.そこで以下のようなアプローチにより小型化を行った.(1)使用しているデバイスの見直しにより全体の省電力化,および,その結果としての小型化を行った.(2)OCT装置そのものの計測プロトコルを見直すことにより計測原理を簡略化し,不要なデバイスを削除することで装置の低価格化・小型化を行った.この装置を研究室で測定精度向上,深達度向上,ノイズ低減,解像度上昇,速度向上などを図った後,engineering model(EM機)を作製した.これを用いてin vitro実験および動物眼にて,組織とイメージの対応を確認したのち,正常人眼において測定の最適化を行った.さらに,角膜疾患,角膜移植後眼,円錐角膜眼,壊死性強膜炎眼,緑内障眼,濾過胞手術後眼などの各疾患眼において,角膜および強膜における複屈折(birefringence)変化を検討した.装置の深さ方向の解像度は8.3μm,スキャン速度は30,000/sである.その結果,濾過胞の水隙の上方に強い複屈折を認め,組織の線維化が生じている部位があることが示された.角膜移植後眼では,複屈折が増強している部分が炎症あるいはコラーゲンの異常なクロスリンキングが生じている部位に相当していた.強膜炎眼では,強膜の菲薄化と組織の脆弱化部分が示された.
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