研究概要 |
本プロジェクトで開発した偏光ドップラー・前眼部三次元光干渉断層計を眼科外来に設置し,種々のデータ集積を行った.この装置はこれまでに研究してきた複屈折トモグラフィーおよびドップラートモグラフィーの原理を用いた小型・安定化トモグラフィー装置である.これを用いてin vitro実験および動物眼にて,組織とイメージの対応を確認したのち,正常人眼において測定の最適化を行った.病的眼における検討では,円錐角膜7眼において偏光OCTによる撮影を行い,15眼中5眼において角膜に強い位相遅延(phase retardation)を認めた.全例において,位相遅延の位置は角膜形状異常の位置と直接関連していなかった.円錐角膜眼における複屈折の増強は角膜のラメラ構造変化によって生じているものと考えられた.緑内障に対する線維柱帯切除術を受けた眼では,濾過胞中の水隙上方に強い複屈折を示す部分を認め,とくにbleb failureによって高眼圧になっている眼で強い複屈折がみられた.これは,組織修復過程におけるコラーゲンのfibrosis形成を反映しているものと考えられた.角膜移植後眼では,複屈折が増強している部分が炎症あるいはコラーゲンの異常なクロスリンキングが生じている部位に相当していた.強膜炎眼では,強膜の菲薄化と組織の脆弱化部分が示された 動物眼において強膜の複屈折と組織の弾性の関連を検討した.豚眼の強膜の複屈折を偏光OCTで測定した後,輪部に平行に短冊状に切り出して,1.8mm/秒で伸展させつつ,組織の変形とその際の応力を測定した.その結果から種々の弾性係数を計算した.その結果,測定された複屈折と組織の弾性係数の間に統計的に有意な相関を認めた.とくに,視神経乳頭周囲の強膜でその相関が強くみられた。
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今後の研究の推進方策 |
順調に研究は進行しており,とくに研究計画の変更は必要ない.今後,臨床データを積み重ね,組織の位相遅延,複屈折の生理学的及び病理学的意義を確立していく予定である.
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