脊髄損傷のラットの脳脊髄液中へ骨髄由来単核球を投与することにより歩行運動の改善,脊髄損傷程度の軽減が得られることを確認した。ラットの実験では、移植された単核細胞は損傷部で数週間以上生存することはなくやがて消失したが、髄液中のHGFが増加しており移植細胞から分泌される液性因子が脊髄の再生に関与していることが示唆された。また、損傷部へ遊走した細胞が宿主の細胞と直接コンタクトして何らかのシグナルを伝達する事による作用も再生に関与していると予想された。獣医科病院でダックスフントの脊髄損傷に対し骨髄単核球を移植するイヌでの臨床研究を実施し、細胞移植による有害事象はなく麻痺の回復が認められた。また,ヒト脊髄損傷患者に対する骨髄単核球を用いた臨床試験は諸外国でいくつか実施され,移植による有害事象はないと報告されている。もし骨髄単核球の移植で治療効果が得られれば培養操作が不要なため簡便で広く行える治療法となりうる。動物実験データ、脊髄損傷イヌの治療データ、他の施設での臨床試験データを示すことで,倫理規制の厳しいわが国で本臨床研究が厚生労働省の承認を得ることができた。受傷後50日目に単核球を移植してASIAのAからBに回復した症例があった。正確なtherapeutic windowを決めるには、臨床試験を積み重ね結論を導き出すしか方法はない。本研究も臨床データの一つとして今後活用されていけばよいと考える。本研究はphase1-2 clinical trialであるので安全性と実現性(feasibility)を評価するものでる。投与細胞数および投与回数は厚生省が承認したものである。安全性が確認されたので、今後は細胞数、投与回数を増加させて有効性を評価していくことになる。その際には十分な患者数を集めるためmulticenter research collaborationsが必要となる。
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