研究概要 |
敗血症に伴う多臓器不全の克服のために,制御不能に陥った炎症と細胞障害進行における相互の負の連鎖を断ち切る手段の開発が,重要な課題となっている。骨髄間葉系幹細胞を用いた細胞移植は,脊髄損傷や心筋梗塞等,一度損傷を受けると再生が困難な臓器に対する再生治療法として発展してきた。骨髄間葉系幹細胞は,脱落した細胞を補充しうる多分化能を備えているが,最近では,その分泌性因子が損傷細胞を保護すると共に,抗炎症能力を発揮することがわかり,注目が集まってきている。今回我々は,cecal ligation and puncture (CLP)によるラット敗血症・多臓器不全モデルを用いて,骨髄間葉系細胞移植による抗炎症効果を評価した。ラットの盲腸を結紮し穿孔させて,糞便が腹腔内へ漏出する状態にした2時間後に,あらかじめ培養下で増殖させた骨髄間葉系幹細胞を尾静脈から注木した。CLP開始から7日目まで生存を追跡したが,移植群ではコントロール群に比し有意に死亡率を改善させた。CLP24時間後の組織標本を用いた形態学的な評価では,各臓器損傷が移植群において抑制されており,CLPにより誘導される血管内皮細胞のvon Willebrand因子の発現が低下していた。さらに,血清を用いたELISAによる評価では,骨髄間質細胞移植がIL-1β, IL-6, TNF-α, CXCL-1, CCL2等のサイトカイン・ケモカインの発現を抑制し,抗炎症性サイトカインであるIL-10を一過性に上昇させることが明らかとなった。抗炎症効果を発揮しながら,血管内皮細胞を保護し臓器損傷を軽減する能力を有する骨髄間葉系細胞移植は,敗血症・多臓器不全における新たな治療戦略として期待される。
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