研究分担者 |
鍬方 安行 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (50273678)
小倉 裕司 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (70301265)
塩崎 忠彦 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (60278687)
田崎 修 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (90346221)
嶋津 岳士 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (50196474)
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研究概要 |
重症敗血症においては,たとえ救命を得たとしても,記憶障害を含めた高次脳機能障害による後遺症を残すケースがあり,社会復帰上の問題点となっている。海馬における記憶機構には,歯状回に存在する神経幹細胞の機能が関与している。我々は,重症敗血症に伴う全身炎症が海馬における神経幹細胞に影響を与えて,敗血症性脳症としての記憶障害を引き起こしているのではないかと考えた。盲腸結紮穿孔によるマウス敗血症モデルの海馬において(1)血液脳関門構成分子であるOccludinの発現が低下する,(2)IL-1βを発現するIba-1陽性細胞の浸潤が誘導される,(3)敗血症モデルから分離した海馬スライスにおいて長期増強が抑制される,(4)このシステムにIL-1受容体拮抗剤を投与すると長期増幅が改善することを見出した。また,敗血症海馬においてPCNA細胞が減少していることから,重症敗血症に続発する全身炎症反応により血液脳関門が破壊され,炎症性サイトカインの流入やマイクログリアの活性化によるIL-1βの放出が起きることで神経幹細胞の増殖・分化を抑制し,記憶障害が生じるものと推測された。また,脳は脳脊髄液(CSF)という特殊な環境下に置かれているが,CSF環境の変化そのものも神経幹細胞に影響を与えると考えられる。CSFを産生する器官が脈絡叢である。ラット脈絡叢上衣細胞を正常酸素下及び低酸素下の2群にわけて培養し、RNAを抽出した。real-time PCRで評価したところ,低酸素培養群では,神経幹細胞の増殖やニューロンへの分化を抑制する炎症性サイトカイン群であるIL-1β,IL-6,TNF-αの発現が有意に上昇することが明らかとなった。以上の結果から,敗血症に伴う血液脳関門の崩壊や脈絡叢の機能障害によりCSF環境が悪化して,炎症細胞の活性化を伴いながら神経幹細胞機能が阻害され,敗血症性脳症が進行するのではないかと考察した。
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今後の研究の推進方策 |
今後,予定通りに,敗血症モデルにおける腸管幹細胞の機能の評価や,細胞移植治療の血管内皮保護における効果を行っていく予定である。腸管幹細胞の培養は,当教室では初めての試みであり,論文・清書通りに施行してうまくいかない場合は,他研究室に指導を願う予定である。
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