研究課題/領域番号 |
22390338
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 直也 大阪大学, 医学部附属病院, 助教 (50359808)
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研究分担者 |
嶋津 岳士 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50196474)
鍬方 安行 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 招へい教授 (50273678)
塩崎 忠彦 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60278687)
小倉 裕司 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70301265)
田崎 修 長崎大学, 大学病院, 教授 (90346221)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 幹細胞 / 敗血症 / 多臓器不全 / 血管内皮細胞 / 細胞移植治療 / 再生治療 |
研究概要 |
我々は既に,盲腸結紮穿孔法によるラット重症敗血症モデルに対し,骨髄間葉系幹細胞(BMSC)の経静脈的移植が全身性炎症反応を抑制し多臓器障害を軽減しながら生存率を改善させることを示している。この過程で,幹細胞移植による血管内皮細胞保護効果が組織切片による評価で示唆された。本年度は,BMSC由来の分泌性因子が血管内皮に保護にどのように貢献しているかをin vitro系にて解析した。培養血管内皮細胞にlipopolysaccharideや低酸素侵襲を加え,transwellを用いて非接触性にBMSCとの共培養を図った。Real-time PCR法の解析で,骨髄間葉系幹細胞との共培養により,侵襲に対して上昇する血管内皮細胞のE-selectin,VCAM-1等の白血球浸潤を促進する接着因子やIL-6等の炎症性サイトカインが抑制され,一方で,侵襲に対して低下する血管内皮保護因子であるthrombomudulinの発現がBMSCとの共培養で改善することが明らかとなった。更には,血管内皮や幹細胞の増殖や組織保護に関与するVEGF,TGF-βもBMSCとの共培養で血管内皮細胞において誘導され,敗血症に対する細胞移植治療が内在性幹細胞を賦活化する効果を持つことが示唆された。 ラット敗血症モデル作成時にBrdUの腹腔内投与を行って腸管の組織切片を作成した所,コントロールに比し侵襲後早期に腸管陰窩における細胞分裂能が低下していることが明らかになった。その後に腸絨毛が萎縮し始めることを考えると,敗血症において腸管幹細胞の機能障害が誘導されていることが示唆される。 我々は本年度,他の重症病態として,ラットを用いた重症熱中症やクラッシュ症候群に対してそれぞれ迷走神経刺激療法,抗酸化物質投与が奏効することを示した。迷走神経機能障害や酸化ストレスによる幹細胞の動態に対する影響も今後検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は本年度,骨髄間葉系幹細胞が,侵襲に対して傷害をうける血管内皮細胞を保護することを明らかにした。このとこは,幹細胞nicheを構成し幹細胞の維持や分化に関与する血管内皮細胞が敗血症の侵襲で傷害を受けて内在性幹細胞へ影響しうること,また骨髄間葉系幹細胞の移植により,少なくとも間接的に血管内皮細胞を保護しながら内在性幹細胞機能障害を軽減し臓器再生を促進している可能性を示唆している。また,本年度の成果により,実際に腸管上皮幹細胞の分裂能が敗血症にて低下することを明らかにした。 以上より,本研究のテーマに沿い,敗血症における多臓器不全の要因として内在性幹細胞機能障害が関与している可能性や,骨髄間葉系幹細胞移植治療の敗血症病態改善における有効性を順調に示せている。
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今後の研究の推進方策 |
次期年度では,更にラット敗血症モデルを用いて,免疫組織化学的手法を用いて腸管,脳,肺,骨髄における幹細胞の細胞死,増殖能,分化能を視覚的に評価していく。さらに,骨髄間葉系幹細胞の経静脈的移植により,これらの内在性幹細胞の動態がどのように影響するか(改善するか)を評価していく。現在までの研究では,骨髄間葉系幹細胞が少なくとも血管内皮細胞を保護しながら,侵襲に対する内在性幹細胞の機能障害を軽減しているであろうことを示唆しているが,骨髄間葉系幹細胞が腸管等の内在性幹細胞へ直接的にどう影響しているかを評価するまでには到っていない。次期年度では,in vivoでの複雑系における評価だけでは無く,in vitro系で,内在性幹細胞の侵襲応答に対する骨髄間葉系幹細胞の直接的な生物活性を解析していく予定である。
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