研究課題/領域番号 |
22390343
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
池田 通 長崎大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 教授 (00211029)
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研究分担者 |
井奥 洪二 東北大学, 大学院・環境科学研究科, 教授 (60212726)
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キーワード | 骨代謝 / 破骨細胞 / セラミックス / 悪性腫瘍 / 口腔病理学 |
研究概要 |
22年度には各種セラミックスの蛋白吸着特性をアルブミン及びグロブリンを用いて詳細に検討したが、23年度は破骨細胞の生物活性に影響を及ぼす蛋白の同定を目ざし、特定の蛋白にターゲットを絞って実験を行った。吸着蛋白の定量的質量分析を行い、糖タンパクの一種で、破骨細胞の生物活性にも影響を及ぼすことが報告されているvitamin D binding protein (DBP)が、水熱処理HAにきわめて親和性が高いことが確認された。DBPは、2か所の糖鎖がβ-galactosidase及びneuraminidaseによって切断されると活性型のmacrophage activating factor (DBP-maf)になり破骨細胞に直接作用することが知られているが、そのメカニズムの詳細は不明である。DBP及びDBP-mafを用いて骨髄マクロファージに対する走化性をdiffusion chamber assayで確認したところ、DBP-mafのみに走化作用が認められた。また、RANKL発現細胞を用いた独自の破骨細胞共存培養系において、DBM-mafは破骨細胞の多核化にも顕著に影響を及ぼすことが確認された。これらのことは、水熱処理HAを骨欠損部位に移植すると長期間にわたり他のセラミックスに比べて有意に破骨細胞数が増加することをうまく説明していると思われた。現在、骨組織でのDBP及び、DBPを活性化するために必要な糖分解酵素類の発現を確認すべく、予備実験を開始した。骨組織には種々の分化・増殖因子が骨基質蛋白として貯蔵されており、破骨細胞による吸収を受けると骨内に貯蔵されていた各種因子が可溶化して周囲の細胞に重要な機能を果たすと考えられている。本研究成果は、セラミックの骨代替材料の蛋白吸着性が生体反応に大きな影響を及ぼすことを示唆しており、きわめて重要な意義を持つものである。 一方で、様々な病的状態での移植セラミックスの反応をラット大腿骨への移植実験で確認し、卵巣摘出ラット及び坐骨神経切断ラットでも水熱処理HAには強い破骨細胞維持能があることが証明された(論文投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
22年度に供給されたセラミック顆粒を用いた吸着分子の解析については順調に遂行された。その一方で、東北大学の研究室が東日本大震災で被災したため、β-TCP焼結体及びβ-TCP水熱処理ディスクの供給が23年度は完全にストップしてしまった。23年度中に実施予定であったこれらのディスク上に培養した破骨細胞が発現する遺伝子の網羅解析及び比較実験を、24年度に行うことになったため。
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今後の研究の推進方策 |
各種セラミックス上での破骨細胞活性が全く異なることが、動物実験及び以前比較検討したハイドロキシアパタイト(HA)とβ-TCP焼結体上の破骨細胞が発現する遺伝子の違いからわかっていたが、23年度の研究成果から、水熱処理HAで非常に強い破骨細胞維持機能が見られるのは、水熱処理HAがいくつかの特徴的な蛋白に非常に親和性が高いからであると強く示唆された。中でもVitamin D binding protein (DBP)に対する顕著な親和性があり、今後、この分子の破骨細胞形成及び破骨細胞活性への影響を詳細に検討する方針である。
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