研究課題
震災の影響で遅れていたセラミック試料の作製が東北大学で再開し、水熱処理柱状粒子β-TCP、β-TCP焼結体、水熱処理柱状粒子ハイドロキシアパタイト(HA)、HA焼結体ディスク上で破骨細胞を培養し、RNAを抽出、遺伝子発現アレイ解析を行った。破骨細胞は、マウス骨髄由来マクロファージをマウス遊離型RANKL蛋白及びM-CSF存在下で7日間培養することで形成させた。遺伝子発現アレイ解析結果をもとにパスウェイ解析を行った結果、水熱処理柱状粒子β-TCP上で培養した破骨細胞では、β-TCP焼結体上で培養した破骨細胞に比べてインターフェロン刺激により誘導される一群の蛋白の一つであるISG15に関連したシグナル分子の発現が上昇していることが判明した。本研究課題の動物移植実験において、水熱処理柱状粒子β-TCP移植ラットでは卵巣摘出後も移植部位の骨量が疑似手術動物と同等に保たれるとともに、生理的な骨梁構造も保たれることをこれまでに明らかにすることができた。そのメカニズムとして、骨吸収を抑制する作用が知られているインターフェロンによって誘導される蛋白の一つであるISG15が重要な役割を果たしていることが示唆された。昨年までに明らかにしたもう一つの重要分子候補であるvitamin D binding protein(DBP)及びISG15の抗体を用いて、ヒト口腔扁平上皮癌顎骨浸潤部位及び、ヒト骨巨細胞腫の病理標本をそれぞれ数例ずつ免疫組織化学染色した。その結果、口腔扁平上皮癌細がDBPを発現すること、浸潤部位の先端にある結合組織でISG15の発現が顕著に認められることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
動物実験の詳細な解析により、水熱処理柱状粒子β-TCPは、卵巣摘出によりホルモンバランスの異常で起こる急激な骨破壊にも耐える優れた骨代替材料であること、この性質が材料自体の吸収度の違いによって起こるものではない可能性が高いことを示すことができた。また、そうした生体反応の違いにISG15が関与している可能性があることを突き止めることができた。一方ハイドロキシアパタイト(HA)については、水熱処理柱状粒子HAに非常に強い破骨細胞保持能力がある理由として、水熱処理柱状粒子HAがHA焼結体に比べてvitamin D binding protein (DBP)を数倍多く吸着する能力があることが関係していると考えられた。DBPは糖鎖を有しているが、糖鎖をneuraminidase及びgalactosidaseで切断することによってDBP-macrophage activating factor(DBP/MAF)になることが知られており、DBP/MAFは破骨細胞を活性化することが示唆されている。本研究においてはDBP/MAFに破骨細胞形成刺激作用があることを明確に示すこともできた。まだパイロットスタディーであるものの、病理組織学的に、骨破壊を伴う悪性腫瘍細胞やその間質細胞でこれらの分子が発現していることを明らかにできたことから、当初の目的をおおむね順調に達成しながら研究を行うことができたと判断した。その一方で、水熱処理柱状粒子ハイドロキシアパタイト(HA)とHA焼結体上で培養した破骨細胞の生物活性の違いはまだ解析途上であることから、当初の予想以上の進展とは言えないと判断された。
我々が開発したβ-TCPの動物への移植実験の詳細な解析により、骨破壊モデル及び骨非破壊モデルを作製することができたことから、その原因となる新たな骨代謝調節因子としてISG15が候補としてあげられた。一方、水熱処理柱状粒子HAの強力な破骨細胞保持能力に、vitamin D binding protein (DBP)への強い親和性が関与していることが示唆された。これらの成果を踏まえ、以下の研究を推進する。1.パイロットスタディーで行ったDBP及びISG15抗体を用いた免疫組織化学を、より多くの系統だった臨床病理組織症例を用いて実施し、結果の解析を行う。さらに、DBPを活性化してDBP-macrophage activating factor (DBP/MAF)に変換するのに必要な酵素であるneuraminidase及びgalactosidaseの各抗体を用いた免疫組織化学染色も同時に行う。2.口腔扁平上皮癌細胞株でのISG15, DBP, neuraminidase, galactosidase遺伝子の発現を調べる。3.水熱処理柱状粒子HA及びHA焼結体上で破骨細胞を培養し、発現遺伝子の違いを遺伝子発現アレイ解析で明らかにする。4.これらの成果を学会及び学術雑誌に発表する。
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Acta Histochem. Cytochem
巻: 45 (5) ページ: 283-292
10.1267/ahc.12012