研究概要 |
本研究は,骨芽細胞・骨細胞と造血幹細胞の異種組織間における機能的クロストークとこれを介する分子としてのWntシグナル分子の役割を明らかにすることを目的とした.骨細胞特異的にジフテリア毒受容体を発現させたトランスジェニックマウスは,この毒素を投与することで骨細胞を死滅させることができる.このマウスを用いて骨細胞が及ぼす影響について検討した.B リンパ球やT リンパ球が著しく減少し,胸腺が委縮した.また全身の脂肪組織の脂肪が減少し体重が減少した.またこのマウスの視床下部を破壊すると脂肪肝が発症した.骨細胞は免疫機能や脂肪組織・肝臓などの機能を制御していることが示された.これらの結果から,骨細胞と全身の異種組織間との機能的クロストークの存在を示唆するものと考えられた. Neuropeptide Y (NPY)は36アミノ酸残基よりなるペプチドで中枢神経系に広く存在し,食欲,エネルギー消費などに関与する.NPYのGタンパク質共役型受容体の一つであるY1 receptor (Y1R)の骨芽細胞特異的遺伝子欠失マウスでは骨量の増大が報告されている.C2C12細胞にBMP2を加え培養するとY1R mRNA発現が誘導された.Smadの導入によってもY1R mRNAの発現が誘導された.マウスY1R遺伝子プロモーターの解析およびChIP assayからY1R遺伝子の-373 bpより下流にSmad結合領域の存在が認められた.Y1R siRNAをMC3T3-E1細胞に導入しY1Rの発現をノックダウンするとRunx2, osterix, ALPやオステオカルシンのmRNA発現が増加し,NPY-Y1Rシステムはautocrineに作用して分化を負に制御している可能性が示唆された.これらの結果より骨細胞から神経ペプチドによる制御機構が存在することが明らかになった.
|