本年度は、歯周病原因菌のジンジバリス菌感染に伴う宿主自然免疫応答システムの分子機構と歯周病原性酵素ジンジパインの特異的阻害ペプチドの取得について研究を行った。具体的には、(1)細菌感染に伴うTLRを介する自然免疫シグナルが、エンドリソソーム系蛋白質分解システムの機能にどのような影響をもたらすのかを個体レベルではカテプシンE(CatE)欠損マウスやCatE過剰発現マウスを用いて、細胞レベルでは、それぞれのマウス由来のマクロファージを用いて解析した。さらに、野生型ならびにCatE欠損マウス由来の血管内皮細胞にジンジバリス菌を感染させ、その後のエンドリソソーム系における菌の局在と生存率を解析し、細菌感染におけるエンドリソソーム性蛋白質分解システムおよびCatEの役割を解析した。その結果、CatE欠損マウスはジンジバリス菌感染に対して最も感受性が高く、菌感染2日後にすべてのマウスは死亡した。それに対し、CatE過剰発現マウスは本菌感染に対し最も高い抵抗性を示し、菌感染7日後でも殆どのマウスは生存していた。それぞれの動物由来の腹腔マクロファージを用いた実験では、LPS(宿主TLR4に対する本菌のリガンド)に対する応答がCatB過剰発現マクロファージで最も高く、CatE欠損マクロファージで最も低かった。これは、TLR4の細胞表面発現量がCatE欠損マクロファージで著しく低下していることによることが分かった。血管内皮細胞に感染したジンジバリス菌の生存は、CatE欠損マウス由来細胞では野生型細胞に比べて有意に延長されることが分かった。これらの結果から、CatEはエンドリソソーム系蛋白質分解システムを介して生体防御機構に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。(2)新規ディスプレイ法を用いてジンジパインに結合する複数の阻害性ペプチドを取得した。このうちの1つは、2種類のジンジパイン(RgpとKgp)を同時に阻害するDual阻害剤であることがわかった。現在、これらの阻害性ペプチドの特異性、結合定数、高機能化等の検討を行っている。
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