本年度の研究成果は以下の通りである。(1)歯周病の主要原因菌であるジンジバリス菌を感染させたカテプシンE(CatE)欠損マウスは菌感染後の生存率が同系野生型マウスに比べて著しく低く、それぞれのマクロファージを使った培養系においても前者は後者に比べて菌体排除能や細胞応答が有意に低かった。また前者は、メラノーマ細胞を移植した後の腫瘍の増殖能や転移能および個体死数がいずれも後者より有意に高かった。(2)歯周病と早期低体重児出産の連関に関する研究では、ジンジバリス菌を感染させたマウスは菌量依存的に出生仔数および出生体重、分娩数を減少させ、死産数も増加したが、ジンジパイン欠損株やジンジパイン阻害剤を投与したマウスはこうした変化を示さなかった。ジンジバリス菌を投与した時の各臓器の菌濃度は胎盤と胎膜で高く、胎盤では投与後経時的に正常組織の破壊像が認められ、菌は胎児と母体の境界に局在していることが示された。(3)歯周病と肥満および糖尿病の連関についての研究では、高脂肪食で飼育したCatE欠損マウスが、体重減少や肝腫、胆嚢肥大などを特徴とする異常な脂肪蓄積が非脂肪性肝胆系に観察され、白色脂肪組織や赤色脂肪組織の発育不全が示された。また、高脂肪食飼育のCatE欠損マウスの白色脂肪組織の脂肪細胞中のPPARγやc/EBPα、マクロファージ中のTNF-αやiNosの発現量が高脂肪食で飼育した野生型マウスのそれらより有意に低いことも示された。以上の結果から、CatEは正常な免疫反応を介して生体恒常性の維持に強く貢献するとともに、ジンジパインが歯周病菌感染に連関する早期低体重児出産や糖尿病発症において重要な役割を果たしていることが明らかにされた。これまでの研究に基づき、歯周病とこれに連関する全身疾患の新たな分子標的予防治療薬を開発する目的で、CatE活性化ペプチドアプタマーおよびジンジパイン阻害性ペプチド性化合物が創出され、これらを臨床応用するための基礎的研究が行われた。
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