研究概要 |
本研究で検討を加えているナノ物質には,抗酸化作用,触媒作用,および細胞から抗菌タンパクを誘導する可能性があげられる。この白金ナノコロイドを用いて接着を強化するとともにその耐久性を上げ,ナノテクノロジーを臨床に応用することを長期的な目的としている。 白金ナノコロイドを生体内で使用するにあたって,培養細胞を用いてレジン材料による酸化ストレスがナノコロイドによって緩和されるかを調べたところ,スーパーオキサイド以外には抗酸化作用が発現されない可能性が示唆された。一方,ROSに,関するスカベンジャーとしての役割を,murine pre-osteoclastic RAW 264.7 cellを用いて調べたところ,RANKLに刺激された破骨細胞の分化をスカベンジャーとしての働きで阻止することが見られた。この性質は,骨疾患にに関する新たな薬剤として応用される可能性が示唆されている。 一方,接着材に応用した場合,接着界面のどの部分にナノコロイドが存在するかは長らく不明であった。接着界面の超薄切切片を作りTEM観察を行い,加えてEDXによる検証によって,ナノコロイドは接着界面の最表層部の100ナノメートルにのみ存在することが判明した。このことは,接着界面全層にわたってナノコロイドが浸透していないことが明らかで,短期的には接着強さが向上しても長期的には裸出コラーゲン線維がMMPに消化されてしまう可能性を示唆している。 そのため,今後はまず,白金ナノコロイドを接着界面の表層から下層まで一様に分布させる方策の検討が重要であり,その方法を模索して行くことになる。現在,白金ナノコロイドと酸を混合しエッチャントとして使用した場合の検討をしているが,きわめて興味深い脱灰像が得られているが,白金ナノコロイドが接着界面全層に浸透している像は得られていない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点で,白金ナノコロイドが,細胞レベルではあるが,生体に何らかの害のある作用は示さないということが分かっており,生体への応用の第一歩は踏み出しつつあると考えられる。また,接着界面のTEM観察等により新たな知見と方向性が見られ,今後のさらなる展開が期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
再び,白金ナノコロイドを用いた象牙質接着への応用は,新たなステージに踏み出しはじめている。従来の方法では,白金ナノコロイドが接着界面に十分に浸透しておらず,象牙質接着界面の表層に付着しているのみという結果が示唆されており,このままでは耐久性のある接着が期待できない可能性が考えられる。そのため,白金ナノコロイドの界面での分布状況のさらなる検討を加えて,どのようにすればナノコロイドの十分な浸透が図れるかを導きだすことが重要であり,また白金ナノコロイドを用いた場合の象牙質酸処理のモディファイ化というような現象が見られているが,どのような理由でこのような現象が起こってきているのかについての原子レベルでの検討がまず必要である。この辺りの検討を加えることで,今までと全く異なる象牙質処理が可能な処理剤の開発に向けての検討を開始できる可能性がある。 次いで,生体ストレスと白金ナノコロイドの関係を様々な細胞等を用いて,詳細な検討を加え,生体における積極的な応用が可能かどうかの検討も必要である。
|