研究概要 |
失活歯の歯根破折は,歯科臨床において解決すべき重要な課題である.申請者らは,360nm前後の長波長の紫外線照射で象牙質の曲げ強さが向上する事象に着目し,歯質強化に最適の紫外線照射条件を確定すること,および,象牙質の主たる有機成分であるタイプIコラーゲン分子の微細構造変化を検索することによって,強化メカニズムを明らかにすることを目的に実験を遂行した. その結果,波長360nmおよび400nm、出力1200あるいは1600mW/cm^2の紫外線を15分照射することによって、象牙質の曲げ強さが最大2倍に増加することが明らかとなった。その場合の表面温度の上昇は、45℃に抑えられることも分かった。また破壊靭性値は、紫外線照射前後で、それぞれ2.35±0.40 MPa√mおよび2.35±0.40 MPa√mであり、大きく変化しないことも分かった。さらに、紫外線照射した象牙質試料を1週間水中浸漬した場合でも、強化効果の56%が保持されることが明らかとなった。 続く原子間力顕微鏡を用いたナノインデンテーションの結果より、紫外線照射によって象牙質の微細構造のうちハイドロキシアパタイトを多く含む管周象牙質の硬さおよび弾性係数には変化がないものの、主たる有機成分のタイプIコラーゲンを多く含む管間象牙質のそれらは有意に増加することが示された。 以上の結果より、紫外線照射によって象牙質の機械的強度は有意に増加し、その強化効果は水中浸潰後も保持される安定した化学変化であり、象牙質のタイプIコラーゲンの変化に起因している可能性が示唆された。
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