研究概要 |
失活歯の歯根破折は,歯科臨床において解決すべき重要な課題である.申請者らは,360nm前後の長波長の紫外線照射で象牙質の曲げ強さが向上する事象に着目し,歯質強化に最適の紫外線照射条件を確定すること,および,象牙質の主たる有機成分であるタイプIコラーゲン分子の微細構造変化を検索することによって,強化メカニズムを明らかにすることを目的に実験を遂行した. 1)エックス線回折による象牙質タイプIコラーゲンの分子配列分析 紫外線照射前後の象牙質のコラーゲンの分子配列を,回転対陰極型X線発生装置(UltraXI8,リガク)を搭載したイメージングプレートX線検出器(R-AIS IV,リガク)を用いてエックス線回折にて分析した.その結果,コラーゲンの分子間距離が約30%することが分かった. 2)顕微ラマン分光分析による象牙質タイプIコラーゲンの分子構造変化の分析 厚さ約20μmの薄切切片に加工した象牙質試料を脱灰し,紫外線照射を行った.試料は,顕微レーザーラマン分光分析装置(RAMAN-11,ナノフォトン)にて,レーザー波長785nmで測定に供し,紫外線照射前後でのコラーゲンの分子構造変化を分析した.その結果,プロリンのイミド環の炭素に相当する波長が著しく増幅し,化学変化が起こったことが確認された. 3)高速液体クロマトグラフィーによる象牙質タイプIコラーゲンの架橋構造変化の分析 歯冠象牙質を液体窒素で凍結粉砕し,紫外線照射に供した後,陽イオン交換高速クロマトグラフィー(DGU20A3,島津製作所)を用いてコラーゲン分子間架橋の定量を行った.その結果,還元性および非還元性架橋には変化がないものの,老化架橋は著しく減少していた.
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今後の研究の推進方策 |
今後も引続き、エックス線回折,顕微赤外分光分析および顕微ラマン分光分析による象牙質タイプIコラーゲンの分子構造変化の分析をすすめ,紫外線による象牙質の強化メカニズムの詳細を明らかにする予定である。 さらに,強化深度や疲労破壊挙動の詳細な分析も,遂行すべきであると考えている.
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